(ブルームバーグ):多様性を重んじる企業に対するトランプ米大統領の厳しい姿勢は、男女平等で欧米諸国の後塵(こうじん)を拝する日本企業の評価が高まる機会となり、米国の関税政策で急変動が続く株式市場に差す光明なのかもしれない。
多くの米国企業が多様性・公平性・包摂性(DEI)への取り組みを後退させており、推進を続ける日本企業は、トランプ関税の影響が相対的に小さい有望な投資先として浮上している。
女性役員の登用など多様性への取り組みを優先する企業の株価は、そうでない企業よりも市場の変動に強いとストラテジストは指摘する。ジェンダーの多様性に積極的な日本企業で構成するMSCIの指数は、過去2年間で日経平均株価を10%超アウトパフォームする。
「多様性は長期的な株価パフォーマンスを押し上げる要因だ」とJPモルガン証券の西原里江チーフ日本株ストラテジストは語る。株式相場が落ち着きを取り戻せば、多様性の改善に努めてきた企業とそうでない企業との差は明確になるとの見方を示した。

米ボストン・コモン・アセット・マネジメントは、市場の急変動が続く中でも日本株に対して「前向きな見方を維持」している。同社が運用するグローバルESG(環境・社会・企業統治)ファンドは昨年末時点で日本株を21%保有、さらに追加する銘柄を求めて調査を行っている。
3本のESGファンド約4億3600万ドル(約640億円)を運用するマネジングディレクターのローレン・コンペール氏は「コーポレートガバナンス(企業統治)とDEIの改善に前向きに取り組む日本企業は多い」と指摘。「DEIの持続的な改善と勢いが強い企業はグローバル投資家にとって魅力的だろう」と言う。

政府が女性役員の登用拡大を促し、男女格差は改善傾向にある。MSCIが2月に発表した報告書によると、日本の大企業の取締役会で女性の比率は2024年に前年から2.5%上昇した。これは世界平均を上回り、アジア太平洋地域では最も高い伸びだ。
もともと日本企業の多様性は欧米と比較して低いため、少しの改善でも効果は大きい。24年の女性の割合は20.5%で、英国の43.6%、米国の33.7%と比べて低く、世界平均の27.3%をも下回る。東証プライム市場の上場企業を対象に30年までに30%という政府が掲げる目標はまだ遠い。

ジャパン・ボード・ダイバーシティー・ネットワークの創設者であるトレイシー・ゴパール氏は、多様性を推し進め過ぎた米国企業がトランプ大統領の標的となる一方、多くの日本企業の取り組みはまだ不十分だと指摘する。女性社員向けの管理職研修は少なく、男性優位の企業文化が依然として根強いと述べた。
それでも「日本には改善の機会がある」と同氏は期待を示す。また、JPモルガンの西原氏は、人口が減少する日本では労働力の多様化が不可欠で、「女性の潜在能力を最大限に引き出す以外に選択肢はない」と話した。
グローバル・インパクト投資ネットワークのアミット・ボウリ最高経営責任者(CEO)によると、日本企業のガバナンスとジェンダー多様性の改善は、財務的な収益と社会的・環境的なインパクトの両方を追求するインパクト投資家の注目を集めている。
「日本で起きている事に非常に強い関心が寄せられている」とボウリ氏は説明し、「日本でのインパクト投資の勢いは刺激的だ」と語った。
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