(ブルームバーグ):トランプ米大統領は、経済的混乱を引き起こす恐れがあるとの警告にもかかわらず、輸入品に大幅な関税を課す計画を推し進めてきた。しかし、世界的な金融市場のメルトダウンが続くと、突然方向転換した。
トランプ氏は9日午後、上乗せ関税の一時停止を発表。同関税の発動からわずか13時間後のことだった。トランプ氏は、関税導入後の金融市場の混乱が、自身の決定に影響を与えたと示唆した。

停止されたのはどんな関税か
トランプ氏は、約60カ国と欧州連合(EU)を対象に上乗せ関税を課すとしていたが、報復措置を取らない国々を対象に、90日間停止すると発表した。上乗せ関税の税率は、相手国・地域との貿易赤字額に応じて異なる。
米国の輸入品で最大のシェアを占める中国は、一時停止の対象には含まれなかった。トランプ氏は中国製品への上乗せ課税を125%に引き上げると述べた。中国政府が9日、米国製品に84%の関税を課し報復する計画を発表したことを受けた措置だ。
米国が中国からの輸入品に対して賦課している関税は現在、合計で少なくとも145%に達している。ホワイトハウスの文書によれば、145%にはいわゆる「相互関税」としての125%と、合成麻薬フェンタニルの流入を理由に課している関税20%が含まれる。
現在も適用されている関税は
中国以外の貿易相手国には一律10%の関税が適用される。そのほかの分野別、国別の関税も引き続き課される。
- 米国に輸入される自動車への25%の関税。3日に発効した。自動車部品にも5月3日までに同様の関税が発動される見通しだ。
- 鉄鋼・アルミニウムへの25%の関税。
- メキシコとカナダからの輸入品にかけられる10%または25%の関税。 2020年の「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の規定に基づいて出荷される製品は、ほとんどの場合免除される。

トランプ氏はなぜ一時停止したのか
上乗せ関税の実施は市場に混乱をもたらし、リセッション(景気後退)への懸念が強まった。トランプ氏に対しては、企業幹部や投資家から方針撤回への大きなプレッシャーがかけられた。トランプ氏は、一時停止の決定が金融市場の混乱に大きく左右されたことを認め、「人々が少し行き過ぎていると思った。彼らは興奮し、恐れていた」と語った。
一時停止期間が過ぎるとどうなるのか
予測不能なトランプ政権の出方は読めない。
一時停止を発表したトランプ氏の投稿は、貿易相手に関税を巡る取引での時間的余裕を与えることが目的だと示唆した。トランプ政権は貿易相手国・地域に対し、関税だけでなく、規制や割当枠、国内製品への補助金、知的財産の不要な保護といった他の非関税障壁の引き下げも求めている。
90日の期限を迎える7月初旬までに各国と米国の交渉が合意に至らず、上乗せ関税が再発動する可能性はある。トランプ氏が停止期間の延長を発表することもあり得る。同氏はメキシコとカナダへの関税発動を2度延期していた。

関税一時停止に対する市場の反応は
トランプ氏の停止の発表で、9日の株式相場は急伸した。S&P500種株価指数は9.5%上昇し、2008年以来の大幅高となった。トランプ氏が上乗せ関税を発表し、金融市場は恐怖から高揚感に急旋回した。世界的な景気減速への懸念から、それまで数日間下落していた原油価格も反発した。
ただ、10日の米株式相場は下落。関税を巡る米国と中国の緊張激化に対し、警戒感があらためて高まっている。
米国は景気後退へ向かっているのか
トランプ氏が関税一時停止の発表をする前には景気後退懸念が強まっていた。トランプ氏が上乗せ関税を発表する考えを示して以降、消費者心理は悪化し、ウォール街では、米国が景気後退局面に陥るとの見通しが強まった。アナリストらは、物価上昇および企業活動の慎重化が成長を損ない、経済の縮小につながる恐れがあると指摘した。リセッションの定義はさまざまだが、多くの経済学者は、国内総生産(GDP)が2四半期連続で縮小することと定義している。

トランプ氏の次の一手を巡る深い不確実性は、中国製品に対する高関税による影響などと相まって、多くの経営者や投資家を不安にさせている。こうした不安が支出の大幅な抑制につながれば、経済は引き続き下押し圧力にさらされることになる。
なぜ中国はトランプ関税の1番の標的なのか
トランプ氏もバイデン前大統領も、中国は優遇する自国産業に多くの補助金を与えたり、外国企業に中国市場への参入と引き換えに知的財産共有を強要したりと、不公平な通商慣行を行っていると非難してきた。
トランプ氏は1期目の政権でも中国への関税を引き上げた。2期目に入り、トランプ氏は、中国が合成麻薬フェンタニルやその製造に必要な化学物質の輸出抑制を怠っているとして、責任を問う方法として中国に関税を課すとする大統領令に署名した。こうした化学物質は、米国のオピオイド危機の一因とされる。
原題:Why Trump Paused Tariffs, and What Happens in 90 Days: QuickTake(抜粋)
--取材協力:Matthew Boesler、Reade Pickert、Josh Wingrove、Skylar Woodhouse、Daniel Flatley.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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