香港の大富豪李嘉誠氏が、パナマ運河を巡る米中の諍(いさか)いに巻き込まれている。

同氏の複合企業、長江和気実業(CKハチソン・ホールディングス)はパナマ運河沿いの2つを含む港湾事業を米資産運用会社ブラックロックを中心とした企業連合に売却する計画だが、中国当局はこれを批判している。

一方、トランプ米大統領は、パナマ運河は中国が運営していると誤った主張を繰り広げ、米国が戦略的に重要な水路の管理を取り戻すべきだと訴えていた。

事情に詳しい関係者によると、CKハチソンは当初の目標だった4月2日までには港湾売却に関する正式契約に署名しない可能性が高い。取引に関する作業はまだ進行中だが、双方は手続きを完了させるためにさらに時間が必要だと関係者が述べた。

パナマ運河の港湾売却の背景は何か

CKハチソンの事業部門が、世界の海上貿易のおよそ3%を担うパナマ運河に隣接する5つの港湾のうち2つを管理している。パナマは1998年に同社に利権を付与。2021年に更新し、さらに25年間の運営を認めた。

トランプ氏がこの水路に注目するまでは、これは問題ではなかった。しかし同氏は、パナマ運河を建設した米国が1999年にその運営権をパナマに譲渡したのは「愚か」だったと考えており、パナマ運河の利用料についても不満を持っている。

トランプ氏はまた、同運河を中国が管理していると主張。この主張は誤っているものの、中国が主要なインフラプロジェクトを通じて中南米で影響力を強めていることは、民主・共和いずれの党の米政権にとっても懸念事項となってきた。

パナマ運河の太平洋側にあるバルボア港はCKハチソンが運営している

トランプ政権からの圧力が高まる中、CKハチソンは23カ国にある43の港湾を売却するという大規模な合意を発表した。中国本土と香港の施設は維持する。現金190億ドル(約2兆8300億円)という売却価格は好条件だとアナリストは評価している。

発表の2日後、トランプ大統領は米議会での演説でこの取引に言及し、政権は既にパナマ運河を取り戻し始めたと述べた。

香港の大富豪である李嘉誠氏は、中国と米国の対立の渦中に立たされている

中国はどう反応したか

事情に詳しい関係者によると、中国当局は3月中旬、李氏および同氏の家族と関連のある企業との新たな提携を控えるよう、国有企業に指示した。

これに先立ち、中国政府で香港政策を統括する香港マカオ事務弁公室はCKハチソンの港湾売却に対する不快感を表明。香港の親中派メディアである大公報に掲載された論説を再投稿した。

論説は「どちらの側に立つべきか」を慎重に考慮するよう企業に警告したり、「偉大な企業家は誇り高い愛国者」でなければならないと論じたりする内容だった。

中国国家市場監督管理総局を含む複数の中国機関が、CKハチソンの取引について、潜在的な安全保障上の問題や独占禁止法違反の有無を調査していると、事情に詳しい関係者が述べている。

外務省の郭嘉昆・報道官は27日「中国は、他国の正当な権利や利益を侵害するための経済的強要やいじめに、常に断固として反対してきた」と述べた。

中国は李嘉誠氏に対して何ができるのか

李氏は数十年にわたり、傘下企業の「大中華圏」へのエクスポージャーを減らしてきたため、中国が同氏に対して振るうことができる影響力は限定的だ。小売り、通信、港湾、公益事業に重点を置く同氏の複合企業が中国本土と香港での事業から得る収入は全体の12%に過ぎない。

また、中国国有企業との将来の取引が失われるとしても、港湾の売却による現金190億ドルという約束された報酬は十分な代価になる。

李嘉誠氏と中国の関係はどうか

李氏(96)は中国の指導者たちと良好な関係を築いていたが、同氏と中国本土の関係は2013年に習近平氏が国家主席に就任してから弱まったように見える。

香港の民主化運動が始まった後は、運動をひそかに支援しているとして李氏を「ゴキブリ王」と唾棄する声も上がった。

李氏のビジネス取引が中国政府を怒らせたのは今回が初めてではない。15年には中国本土の不動産を売却し、グループ全体を再編した後、CKハチソンと長江実業集団(CKアセット・ホールディングス)をケイマン諸島で法人登録したことで、中国国営メディアから批判された。

原題:How Li Ka-shing Landed in the Middle of US-China Tiff: QuickTake(抜粋)

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