ドイツのプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社ムタレスは、経営難に陥っていたオーストリアのエンジンメーカー、シュタイヤー・モーターズを1ユーロで取得した。2022年に行ったこの取引は、最近の防衛関連株ブームのおかげで欧州で最もホットな投資となった。

シュタイヤーの株価は昨年10月以降に1600%急騰。親会社ムタレスの株価も半年で2倍になった。

欧州の防衛ブームの勢いがうかがえる。トランプ米大統領が欧州安全保障へのコミットメントを縮小させる中、欧州諸国は防衛支出を増やすことを余儀なくされている。

米国株が軟調で欧州がホットな市場になっている今、デイトレーダーからヘッジファンド運用者まで誰もが、軍事・防衛関連の要素を持つ企業の株を買いあさっている。

 

バンク・J・サフラ・サラシンのポートフォリオマネジャー、ジャヤデブ・ミシュラ氏は「防衛関連の話題は非常に盛り上がっており、大手機関投資家やテーマ型ファンドは追随しなければならないが、とにかく買える株式が少ない」と話した。

戦車やボート用のエンジンを製造するシュタイヤーは、1株14ユーロでの私募売り出し後、昨年10月にフランクフルト証券取引所に上場。2025年序盤の防衛関連株投資熱に間に合った。シュタイヤーの株価は18日、約5カ月前の売り出し時の価格から1600%以上上昇し240ユーロの高値を付けた。

シュタイヤー株71%を依然として保有するムタレスの株価も、昨年9月に付けた安値から2倍以上になった。

両社の株価は現在、やや落ち着きを取り戻している。 ムタレスは先週、シュタイヤー株の一部を追加売却する意向を明らかにし、シュタイヤー株は62ユーロまで急落した。

シュタイヤーの株価はそれでも、売り出し価格から343%上昇。ムタレスは23年の最安値から65%上昇している。

ムタレスはフランスの防衛関連企業タレスに、形ばかりの代金を支払ってシュタイヤーを引き取った。

 

シュタイヤーの株価がこれほどまでに急騰した理由の一つは、同社の時価総額が3億2200万ユーロ(約520億円)と小規模で、ムタレスの持ち株比率が高く取引される株数が限られていることだ。上場後の最初の3カ月間、シュタイヤー株は1日平均6万4000ユーロ前後の取引があった。

ムタレスは、シュタイヤー株を追加売却すれば流動性が改善するだろうとしているが、今後も主要株主であり続ける意向を示している。

シュタイヤーのディーゼルエンジンは、米海軍特殊部隊のボートや、戦車「レオパルト2」に搭載されている。欧州防衛強化の恩恵で、25年の売上高は少なくとも40%増加し、利益率は少なくとも20%になるとの見通しを示している。

ジュリアン・カスッティ最高経営責任者(CEO)によれば「株価の推移による直接的な影響はないが、メディアの注目度は非常に高い」という。業績が好調であることとドイツが防衛費の増額を決定したことが投資家の関心を高めていると同氏は電子メールで説明した。

原題:Defense Contractor Sold for €1 Is One of Europe’s Hottest Stocks(抜粋)

--取材協力:Paul Jarvis.

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