パリにも春が訪れた。カフェは活気にあふれ、経済も改善の兆しを見せている。バリアフリーの地下鉄拡張工事により、15分で市内を移動できるようになった。

しかし、富裕層が去っていく足音も聞こえる。2人のフランス人が、1人はドバイへ、もう1人はスイスへ移住する計画を私に打ち明けた。

「ノンドム(英国非永住者)」向け優遇税制見直しで富裕層がロンドンから逃げ出す動きや、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)による銀行脱出と似たような流れで、パリでも税金の重荷が感じられつつある。大企業や富裕層に対して増税が実施される予定だ。

パリはユーロ圏における投資銀行の拠点として選ばれ、100万ユーロ(約1億6000万円)以上を稼ぐフランス人金融関係者の数は4年間でほぼ倍増したが、パリでの採用計画は凍結されつつある。

ピークオイルならぬ「ピークパリ」とでも呼ぶべきこの状況は、グローバルな人材獲得競争で欧州が後れを取っていることを浮き彫りにする。

プライベートエクイティー投資会社やヘッジファンドの人材獲得競争では、所得税がなく、規制も少なく、大規模ファンドが急成長しているアラブ首長国連邦(UAE)のドバイのような都市に、パリとロンドンはかなわない。

ヘッジファンド会社を経営するポール・マーシャル氏によると、ドバイに隣接するアブダビも税制面で「完璧」だという。

ロンドンに拠点を置くコンサルティング会社ヘンリー・アンド・パートナーズによると、昨年6700人以上の富裕層を引き付けたUAEにはマドリードやミラノも太刀打ちできない。

 

 

私は以前にも、UAEとの競争は侮れないと主張したことがある。UAEは金融センターの創設、石油収入からの多様化、観光事業の拡大に真剣に取り組んでいる。

ヘッジファンドだけではない。オンライン金融サービス会社レボリュートのニコライ・ストロンスキー最高経営責任者(CEO)は、自社に投資しているUAEでより多くの時間を過ごしている。

勝手に出ていけばいいと言うこともできるが、納税者の流出は将来的に大きな影響を及ぼし得る。

フランスでは、所得上位10%の世帯が所得税の75%以上を支払っている。英国では60%余りだ。フランスのある議員が指摘したように、政府が課税に深く関与すればするほど、税基盤がさらに侵食されるリスクが高まる。

JPモルガン・チェースのフランス責任者、キリル・クールボワン氏は、ブレグジットに伴う最初の移住者たちに対する8-9年間の減税措置の期限が切れる2030年が、人が出て行くかどうかの「試金石」になると予想しているが、時間的余裕があると考えるのは楽観的過ぎるかもしれない。

 

出口税のような流出を防ぐ策は「ピークパリ」の痛みを和らげる可能性がある。また、中東地域の地政学的な緊張が高まりUAEの輝きが失われるのを待つという手もある。

しかしパリは、観光、高級品、政府に結び付いた企業という従来のイメージを超えた新たな魅力を打ち出す必要がある。

一つの選択肢は欧州だ。欧州がばらばらの市場を統合し、何兆ユーロもの貯蓄を解き放つという真剣な取り組みを行うのであれば、フランスは依然として金融の中心地となる可能性を秘めている。

もう一つの選択肢は、パリをより住みやすい街にして、国外に流出した若い世代が家族を持ちたいと思った時に戻ってくるようにすることだ。フランスには保育料税額控除制度があり、子育て支援は得意分野だ。

オフィスビルの住宅への転用やインフラ投資、教育とエンジニアリング人材への重点的投資は、非課税都市との競争よりも有効に思える。

しかし当面は、税金の重荷が続くことを覚悟しよう。

(リオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、以前はロイター通信やフォーブス誌で働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Paris and London’s Wealth Loss Is Dubai’s Gain: Lionel Laurent(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:Paris Lionel Laurent llaurent2@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Joi Preciphs jpreciphs1@bloomberg.net

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