トランプ米政権は欧州のことをどう思っており、欧州に何を求めているのか。それが今やはっきりした。「全く情けない」と思っており、求めているのは現金だ。

これは、トランプ政権幹部による非公開のやり取りが流出したことで分かったことだ。彼らはイエメンの親イラン武装組織フーシ派に対する攻撃計画をメッセージ通信アプリで話し合い、しかも誤って記者をチャットグループに入れるという信じがたい過ちを犯した。

この事実が明らかになる前から欧州側には、北大西洋条約機構(NATO)条約第5条に基づく集団的自衛権の要請にトランプ氏が応じないのではないかとの懸念が生じていた。また、F35戦闘機の運用に欠かせない装備やソフトウエアのアップグレードを米国が提供せず、同盟各国に揺さぶりをかけるのではないかという見方もあった。意図せず流出した今回の会話の内容は、そうした懸念を裏付けた格好だ。

短期的に見れば、情報漏洩による実質的な影響はほとんどないかもしれない。侮辱的ではあるものの、欧州の軍事力が弱いという米政権の見解自体は正しいからだ。しかし長期的には、米国製兵器への依存から脱却し、欧州独自の軍備を構築しようとする動きは大幅に強まるだろう。1966年にフランスをNATOの軍事機構から脱退させ、まさにこうした依存関係を避けようとした当時のシャルル・ドゴール大統領の正しさが証明されたとも言えるだろう。

アジア太平洋地域や中東の米同盟諸国にしてみれば、防衛費の負担や貿易面での譲歩が不十分だとトランプ政権が判断した場合、いずれ自分たちも同じ運命をたどるかもしれないとの結論に至らざるを得ないだろう。

一方で、ロシアや中国の視点に立てば、これは好機に映るはずだ。いずれにせよ重要なのは、実務能力が不十分なイデオロギー偏重集団が世界最強の軍隊を運営すると一体何が起きるのかを、米国の味方も敵も目の当たりにしたということだ。

チャットグループにはラトクリフ中央情報局(CIA)長官も参加していた。しかし同氏は、ハッキングの可能性もある個人の携帯電話を使い、暗号化されているとはいえ一般的に利用可能なチャットアプリ「シグナル」で軍事作戦の情報をやり取りすれば、外国の情報活動にさらされる恐れがあるということに全く思い至らなかったのだ。

そうした脆弱性があるからこそ、米政府は専用の安全な通信システムを備えているのだ。携帯電話でのチャットに比べれば利便性には劣るが、その分、安全性は確保されている。ラトクリフ氏がCIA長官に求められる能力や経験を全く有していないことは明らかだ。一期目のトランプ政権で国家情報長官を短期間務めていた時もそれは明白だった。

アトランティック誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長を意図せずしてチャットグループに招待したのは、ウクライナでの戦争終結に向けた交渉に深く関与しているウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)だ。ウォルツ氏には元陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員という経歴があり、ジョージ・W・ブッシュ政権では政策立案も担った。しかし今回のミスは、ヘンリー・キッシンジャー氏やブレント・スコウクロフト氏ら過去の補佐官も犯しただろうとは到底考えられないようなミスだ。それでもトランプ氏は25日、ウォルツ氏への信頼を表明。「ウォルツ補佐官は学んだ。彼は善良な男だ」とNBCニュースとのインタビューで語った。

ゴールドバーグ氏も含むチャットグループで空爆の作戦計画を共有したのは、元陸軍州兵士官でFOXニュースの番組司会者だったヘグセス国防長官だ。フーシ派への攻撃を単独で実施する能力を持たないとして欧州を「全く情けない」と評したのも、そのヘグセス氏だった。

筆者自身に軍や情報機関での経験はない。そのため、このような軍事作戦を巡る失態が、実際に任務に就いている人々にとってどれほど異例で衝撃的なことなのか、経験に基づいて判断することはできない。しかしウォール街では、世界有数の投資銀行で許可なくメッセージアプリ「ワッツアップ」を使っただけで幹部らが職を失い、銀行も多額の制裁金支払いを余儀なくされたのはつい数年前のことだ

オーストラリア軍退役少将のミック・ライアン氏は、ブログプラットフォームのサブスタックに以下のように投稿した。「今回のセキュリティー上の不手際はぞっとするほどひどいものであり、通常の状況であれば関係者は更迭されるだろう。しかし今回はそうはならないと思う。通常の状況ではないからだ」と。

まさにその通りだろう。あるいは、米国防長官の言葉を借りるとするなら、今回の出来事こそ「全く情けない」ものだ。

(マーク・チャンピオン氏は欧州、ロシア、中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Leaking Military Plans Makes the US Look Reckless: Marc Champion(抜粋)

コラムニストへの問い合わせ先:London Marc Champion mchampion7@bloomberg.netエディターへの問い合わせ先:Joi Preciphs jpreciphs1@bloomberg.net翻訳者への問い合わせ先:New York 宮井伸明 nmiyai1@bloomberg.net

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