こんにちは。布施太郎です。今月のニュースレターをお送りします。

桜の開花ニュースが届きました。春の訪れとともに企業は新年度に向けて人事を発表しました。発令を受けて新しい責任の重さに緊張している人、純粋に喜びをかみ締めている人、中には納得感を得られていない人もいるでしょう。組織で働く人々の悲喜こもごもがあらわになる季節です。

何人かの人たちからは退任が決まったとの連絡が来ました。不完全燃焼を吐露する人もいますが、人事は天命。組織のヒエラルキーを上ることが必ずしも幸せな道とは限りません。これまでの経験や能力を糧に新天地での活躍を願うばかりです。

人事は組織の課題も浮き彫りにします。人事を注意深く考察すると経営陣が抱く将来の方向性や課題が見えてきます。企業の将来が、人事に左右されると言われるゆえんです。今回は、三菱UFJフィナンシャル・グループなどメガバンクグループの2025年度の新役員体制について読み解いてみました。

三菱UFJ:半沢頭取が異例の5年目、次の成長に向けた足場固めを決断

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、中核の三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取が続投する。同行の頭取任期は従来、4年が慣例となっていたが、異例の5年目を迎える。

要因は昨年11月に発覚した支店の貸金庫を舞台にした行員による窃盗事件だ。金融庁は報告徴求命令を出し、同行は今年1月、半沢頭取も含めリテール・デジタル部門の担当役員らの月額報酬減額などの処分を発表した。

三菱UFJ銀行の半沢頭取は異例の5年目に突入する(2021年3月)

当初は、MUFGの亀澤宏規社長が会長に就き、半沢氏が社長に就任するのがメインシナリオだった。しかし、社外取締役らでつくる「指名・ガバナンス委員会」(委員長は野本弘文・東急代表取締役会長)が選定プロセスに入っている最中に同事案が明らかになり、最終的にトップ人事の凍結が決まった。

24年度には貸金庫事件の他にも、傘下の銀行と証券との間で顧客情報を無断で共有したファイアウオール規制違反で行政処分を受けたこともあり、法令順守など金融機関としての守りを固める必要があると判断した。一時期は6月の定時株主総会後のトップ交代の可能性も探ったが、1年をかけて体制整備に注力することになった。

MUFGの25年3月期決算は純利益が前年同期比17%増の1兆7500億円となる見通しで、予想通りなら過去最高を2年連続で更新するなど業績は順調だ。

関係者によると、指名委は亀澤社長と半沢頭取の経営手腕を評価しており、もともとトップ在任期間延長について議論が出ていた。亀澤・半沢体制の続投により、次の成長に向けた足場固めの時期と位置付ける。

一方で、抜てき人事にも踏み切った。従来であれば1995年入行組が常務執行役員に就く年次となるが、96年入行の上野義明執行役員経営企画部長と南宏執行役員法人・ウェルスマネジメント企画部長が「飛び級」で昇格。上野氏は副最高戦略責任者(Deputy CSO)、南氏は最高人事責任者(CHRO)となる。両氏はそれぞれ旧東京三菱銀行、旧UFJ銀行出身のエース格とされ、次世代を担う人材として注目される。

みずほFG:初の外国人副社長起用、執行役の人数絞り権限委譲も

みずほフィナンシャルグループ(FG)の注目人事は、グループで初となる外国人の副社長への起用だ。みずほ証券のスニール・バクシー常務執行役員がFGの特命事項担当副社長執行役員に就く。

バクシー氏は、米金融大手シティグループなどを経て、2019年にみずほ証券に入社。欧州地域戦略担当としてロンドンに駐在している。シティ時代にはロンドンやニューヨークで企業金融や市場、リスク管理など幅広い業務に従事し、日本法人のシティグループ証券の社長も務めた。

みずほFGは外国人副社長の起用でグローバル化を進める

みずほは23年に米M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー会社グリーンヒルを買収。米州、欧州、アジアの地域を越えたクロスボーダーの取引が増えつつあり、バクシー氏はロンドンから地域間の連携を指揮する。

メガバンクは地域ごとに本部を置いてグローバル展開しているが、ともすると各地域の独自色が強まりサイロ化しているとの指摘があった。みずほは地域連携を深めることでグローバル化を次のステージに引き上げる。今回の人事は、将来的に外国人役員を増やしていくための試金石にもなりそうだ。

もう一つの注目点は執行役常務(24年度までは執行役)を従来の20人から15人に減らしたことだ。執行役はリテールや大企業、海外などのビジネス単位ごとの各カンパニーを所管したり、財務や人事など業務ラインの責任者を務めたりしている。一方でグループを俯瞰(ふかん)して全体最適を図る経営判断を下す役割も担っている。

今回、執行役の人数を絞ると同時に、木原正裕社長に集中していた権限を執行役に委譲し、グループとしての意思決定を迅速にするのが狙いだ。

みずほは25年度を最終年度とする中期経営計画で、連結業務純益1兆1000億円、純利益7000億円台半ば、連結自己資本利益率(ROE)8%超とする目標を掲げたが、いずれも24年度に1年前倒しで達成する見通しだ。すでに26年度からの次期中計に向けた新たな目標の策定に入っているが、リテール事業の強化策など課題も残る。金利のある世界の到来で新たな経営環境に直面する中、25年度は次期中計に向けた土台を作る1年となる。

三井住友FG:銀行会長に子会社社長が初就任、執行役員登用は実力本位

三井住友フィナンシャルグループ(FG)は、傘下の三井住友銀行会長に三井住友ファイナンス&リース(SMFL)の橘正喜社長が就くサプライズ人事となった。三井住友FGの首脳ポストはFG会長と銀行会長、FG社長と銀行頭取の四つ。橘氏は、FG社長や銀行頭取を経ずに会長に就く初めてのケースとなる。

FGの国部毅会長は特別顧問に退き、銀行の高島誠会長がFG会長に就任、取締役会議長として中島達FG社長率いる執行部門を監督する。

三井住友FGは子会社社長を初めて銀行会長に登用

橘氏は三井住友銀行で取引先企業の問題解決を担当するコーポレート・アドバイザリー本部長や大企業取引のホールセール部門共同統括責任役員を歴任するなど、中堅企業や大企業を中心に担当してきた。副頭取を経て、SMFL社長を務めた。銀行、SMFL時代から一貫して国内の取引先企業と深い関係を築き上げてきた実績がある。銀行の高島会長と福留朗裕頭取はいずれも海外経験が長かったことから、国内取引先とのトップリレーションの強化には橘氏の手腕が必要と判断した。

中島社長をトップにグループの戦略を決めるFGの経営会議役員も大きく入れ替わる。経営会議役員の顔ぶれは4月に発表されるが、15人のうち4人が退任し、人数も増強して若返りを進める見通しだ。26年度からスタートする次期中計の策定と実行は、就任2年目となる中島社長の下で新しいメンバーに委ねられることになる。

将来経営の中枢を担う執行役員人事でも変化の兆しが表れた。銀行の人事登用は入社年次で決まるのが通り相場だが、実力本位を打ち出した。従来であれば、1997年入社年次が執行役員になるが、2年若返って99年入社年次の執行役員が誕生。さらに中途採用や銀行を一度退職して再入社した社員、外国人からも登用するなど、銀行プロパー中心主義から脱却し、グループ全体から幅広く人材を起用する方向性が示された。

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