（ブルームバーグ）：ウォール街の銀行やヘッジファンドは19日、イスタンブールに集まりトルコの安定性の向上について同国のトップエコノミストから話を聞こうとしていた。
ところが携帯電話に目をやると、トルコ・リラがドルに対して急落していた。その朝、エルドアン大統領の政敵であるイマモール・イスタンブール市長が拘束されたためだ。
ドイツ銀行が顧客を招いて開いたこの会合の出席者はショックを受け、携帯の画面から目が離せなかったと事情に詳しい関係者が語った。
エコノミストがプレゼンテーションを続ける間、招待客たちはトルコの国営金融機関がドルを売り始めるのを待った。しかし、それは起こらなかった。
世界中の投資家がリラを売り、リラは30分以内にドルに対して10％急落した。
大手米銀はロンドン時間午前９時までに約50億ドル（約7500億円）相当の取引があったと推計。午前の平均の約10倍に相当するという。リラからの流出額は同日に100億ドル近くに達したという推計もある。
混乱はすぐに広範な市場に波及し、トルコの銀行株指数は2013年以来の大幅安、10年物国債利回りは33％に達した。
トルコの財務当局は過去２年、経済の安定化に努め、外国人投資家が同国の通貨と国債を買うよう働きかけてきた。しかし、19日の混沌とした30分で、それまでの努力のほとんどが水泡に帰した。
ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループの外国為替責任者、ブラッド・ベクテル氏は「これほど大きな動きがあれば、信頼を取り戻すには時間がかかる」と述べ、中銀がどう対応するか、エルドアン大統領がそれを制御しようとするか次第だが、大統領が介入しようとするなら悪いニュースだと指摘した。
ドイツ銀と、会合に参加していたミレニアム・パートナーズの広報担当者は、コメントを控えた。 同じく参加していたグラマシー・ファンド・マネジメントの広報担当者は会合には触れず、「政治や市場の変動への対応には慣れており、最近の出来事に動揺することはない」と電子メールでコメントした。
23日のイマモール氏正式逮捕・収監を受け、今週のトルコ市場はリラの下落が再開し、再び不安定な状態となった。
数十万人のトルコ人がイスタンブール、アンカラ、イズミルで、外出禁止令を無視して抗議のデモに繰り出した。
イマモール氏（54）が拘束された場合、リラが下落すると投資家は予想していたという。同氏は人気のある政治家で、23日に野党・人民共和党（ＣＨＰ）の大統領候補に指名される予定だった。
しかし、リラ下落の急激さは人々を驚かせた。
ヘッジファンドやその他の機関投資家は長年、トルコで危機が起こる場合、国内にはリラの急落を防ぐために地元の銀行が売却できるドル準備が十分にあると信じ込まされてきた。
トレーダーたちは19日の朝、ドル売りを待っていた。
しかし、トルコの国営銀行は既に海外の貸し手との１日の与信限度額を使い果たしており、運命の30分間、リラは脆弱（ぜいじゃく）な状態にあったと関係者は語った。
ウォール街の銀行やヘッジファンド、その他の資産運用会社は、トルコの型破りな経済政策や政治的混乱が原因で、トルコ投資を敬遠していた。
しかし、シムシェキ財務相がインフレ対策と高金利によるリラの安定維持に重点的に取り組んだことから徐々に海外投資家が戻り、2023年以降にトルコの株式と債券を約300億ドル相当購入したというデータもある。
投資家は特に、キャリートレードと呼ばれる取引に群がった。低金利通貨で借り入れ、高利回り通貨建ての資産に投資するこの取引は昨年、トルコ・リラ投資によって30％以上の利益を生み出していた。
ＪＰモルガン・チェースのアナリストによると、キャリートレードは19日の売り崩し以前に300億ドル以上の規模に膨れ上がっていた。19日のリラ売りによる流出額は100億ドルを超え、投資家にとっては数億ドルの損失に相当する可能性が高いと関係者が述べた。
一部の投資家は今回の売りを一時的なものだとみている。エルドアン大統領がシムシェキ氏とそのチーム、そしてトルコ経済に対するよりオーソドックスなアプローチを支持し続ける限り、安定は維持されるとの見方だ。
パインブリッジ・インベストメンツの新興国市場グローバル債券部門共同責任者、アンダース・フェアグマン氏は、トルコは安定を取り戻すとの見方で「投資家との信頼関係再構築には時間がかかった。１回や２回の政治的なミスでそれを全て台無しにしてしまうのはもったいなさ過ぎる」と話した。
一方、ソシエテ・ジェネラルの為替戦略責任者キット・ジャックス氏は、キャリートレードは「非常に人気の高い取引だった。人々は不意を突かれた衝撃で、すぐに戻ることはないだろう」と述べた。
原題：Wall Street’s Embrace of Turkey Unraveled in Just 30 Minutes (1)（抜粋）
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