イングランド北部でホテルとレストランのチェーンを経営するスティーブ・ペレス氏は、自分が死んだ後も会社が存続できるようにするため、年間10万ポンド(約1900万円)という高額な保険料を支払うつもりだ。

相続人が支払う必要のある推定1000万ポンドの相続税を、生命保険の保険金でカバーするためだ。「事業を継続するためであり、ある程度は自分が築き上げたものを残したいという気持ちからだ」と同氏(68)は話した。

英国中で起業家や富裕層が、労働党政権が計画している相続税の税制変更に頭を悩ませている。ほとんど非課税で年金や事業を継承できるという状況は間もなく過去のものとなり、最大40%の相続税が導入されようとしている。税金を支払うために資産売却や事業解散を迫られる恐れもある。

「相続税をまったく想定していなかった人々が突然、多額の支払いに直面することになる」と、ロンドンのウェザービーズ・プライベート・バンクの上級税務アドバイザー、クレア・マンロー氏は述べた。

変更により、来年4月から農地および企業には100万ポンドを超える部分について20%の相続税が課される。さらに1年後には、個人が積み立てて使われなかった年金も、遺産と見なされ課税されるようになる。

また、相続税がかからない最低額は2030年まで、32万5000ポンドで維持される。この額を超える部分には40%の相続税がかかる。インフレと不動産価格の上昇により、課税対象となる部分は増える可能性が高い。

現在、相続税の対象となる英国民は全体の約4%に過ぎない。新たに課される相続税ほど個人の感情を揺さぶる話題はほかにない。

ファイナンシャルアドバイザーや資産管理会社によると、税制の変更点を理解し選択肢を模索しようとする人々からの相談が急増している。

相続税対策は、一時金として受け取ると25%が非課税となる年金の受け取り額を増やすという単純なものから、子供たちに資産を残すための信託の設立、住宅の贈与、さらにはペレス氏のように税金対策としてかなりの額の生命保険に加入するというものまで、多岐にわたる。

アドバイザーがよく目にするようになった一般的な戦略の一つは、残した年金が近い将来に個人の遺産の一部と見なされるようになるため、生きているうちに年金を使い切ってしまうというものだ。

「世界で最高の相続税対策は、蓄えてきたものを自分が享受することだ」とマンロー氏は話す。「使っても、贈与してもいい」という。英国では、贈与は本人が死亡する少なくとも7年前に行われれば免税となるからだ。

サマセット在住の退職者、ジム・エバラード氏(64)は、この「使う」というアドバイスを忠実に実行している。同氏は最近、年金から引き出す金額を倍に増やし、休暇や新車に散財している。

6年前に退職した同氏は、この1年で日本でのスキーやオーストラリアの家族訪問など長距離旅行を楽しんできた。今後さらに3回ほど同様の休暇を予定しており、1年のうち15-20週を海外で過ごすつもりだ。 車をBMWから、ボルボの電気自動車「ポールスター」に買い換えることも検討している。

受け取る年金を「基本的には主に海外での休暇を過ごすために使っている」という。

マンロー氏によると、早い時期に財産を家族に譲渡することを検討している人もいる。バークシャー州メイデンヘッド在住の財務担当ディレクター、ラック・シドゥー氏(59)は、既にそれを開始している。20代の3人の子供に財産を残したい同氏は、子供たちの学生ローンを完済。節税効果の高い株式口座に現金を入れ始め、子供たちが住宅ローンを組めるよう援助する計画も立てている。

平均余命や終末期の医療費、家族関係の変化を予測することが難しいことを考えると、税制変更と一般的な不確実性は、既に難しい相続計画をさらに困難にするとフライング・カラーズで富裕層に助言するファイナンシャルアドバイザーのリビウ・ラトイ氏は話す。

中小企業のオーナーは、さまざまな課題に直面する。マイケル・ブランドル氏(51)は、5世代続く配送サービス事業を経営している。同氏は自分が死んだ後、事業に1600万ポンドの相続税が課されるとみているが、これは事実上、会社の倒産または解散を意味する。

会社を売却するか、英国から出て行くか、資産を信託するか、子供たちに贈与するか、といった選択肢を検討している。「私が一番避けたいのは、妻に莫大な負債を残すことだ」と言う同氏は、「政府がこの法案を成立させないことを祈っている」。

原題:Wealthy Britons Embrace Creative Tactics to Beat Inheritance Tax(抜粋)

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