株式未公開企業と富裕層の「仲人役」を果たすのは、米銀大手シティグループにとって投資マネーのおこぼれに預かるうってつけの方法に見えた。

シティの富裕層顧客を対象に2012年に発足した「シルバーファーン・エクイティ・クラブ」は、10年余りを経て失意のうちに終了。後味の悪い法廷闘争と、プライベートエクイティー(PE、未公開株)売り込みの落とし穴に関する教訓が残った。

シティとシルバーファーン・グループの提携を巡る長編ドラマは、シティのジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)がシティ・プライベートバンク部門を率いていた当時にさかのぼる。わずか数十人の選ばれた顧客にここだけの投資機会を提供するのが、このクラブの使命だった。シルバーファーンが専門知識を、シティが顧客を提供し、手数料は両社で折半することになっていた。

シティのフレーザーCEO(2018年)

訴訟に関連する文書や証言、電子メールからは、シティが将来のビジネスモデルとしてこのクラブの可能性に賭けていたことがうかがえる。両社の関係は2016年にはすでにひびが入り、顧客は成績の悪さに不平をもらし、シティのバンカーはシルバーファーンに不信感を抱き始めた。クラブは閉鎖され、その後の訴訟では2月27日、ニューヨークの判事がシルバーファーンには数百万ドルの未払い手数料をシティに支払う義務があると判断した。

シティグループの担当者はコメントを控えた。シルバーファーンとその弁護士にコメントを求めたが、いずれからも返信はない。同社は判事の判断を不服とし、控訴している。

プライベート市場アクセス

このモデルは失敗に終わったものの、ウォール街では依然として富裕層顧客にプライベート市場へのアクセスを与えて手数料を稼ぐ試みが活発だ。シティのウェルスユニット立て直しを率いるアンディ・シーグ氏が目指すのは、さらなる投資マネーの取り込みだ。ブラックストーンやKKRといったPEに明るい投資企業は、これまで以上に富裕層への働きかけを強めている。目当ては数兆ドル規模の投資マネーだ。

シルバーファーンとの提携は、PE黄金時代にそうした資金を活用しようとした初期の試みだった。顧客を提供したシティに、シルバーファーンは見返りとして年間管理手数料2%の半分を、成功報酬20%の4分の1を支払うことをいとわなかった。

シティ・プライベート・バンクの幹部デービッド・ベイリン氏は2012年5月、フレーザー氏に送付した社内文書で「シルバーファーンを通じて、新規顧客の獲得と既存顧客からの新たな投資資金の獲得両方が可能になる」としていた。

シティは欧州やメキシコの富豪一族、香港のヘッジファンド運営会社、イスラエルのハイテク起業家など、厳選された富裕顧客39人をクラブに入会させ、4億7000万ドル(約700億円)のコミットメントを取り付けた。フレーザー氏は自力でデューデリジェンス(資産査定)できる「ビッグボーイ」顧客をターゲットに望んでいたことが、社内メールからはうかがえる。

ウォール街の評判

シティ・プライベート・バンクは当時も今も、ブラックストーンやTPG、カーライル・グループといった大手が運用するさまざまなファンドを通じ、顧客にPE資産投資の機会を提供している。この手法だと銀行が得るのは最初の紹介料だけだ。シルバーファーンとのクラブ制モデルでは、繰り返し手数料が得られるため、シティには非常に魅力的だった。

シルバーファーンは2010年の時点でわずか500億ドルを運用するに過ぎなかったが、サーベラス・キャピタル・マネジメントやオークツリー・キャピタル・マネジメントなどが率いる共同投資ディールに参加していた。創業者クライブ・ホームズ、リータ・ホームズ夫妻のウォール街での評判は高く、クライブ氏はドイツ銀行、リータ氏はブラックストーン、ソロス・ファンド・マネジメントでの職歴があった。

車の方が高い

2012年の投資説明会で、ホームズ夫妻のプレゼンテーションは説得力があるとシティ内で広く評価された。比較的少額のコミットメントでも、富裕層クライアントが自由に投資を選択できるようにするのがシティの理想だった。しかし常にディールのスポンサーから配分達成の圧力を受けるシルバーファーンは、これでは納得がいかなかった。

発足から間もない時点、シティのバンカーから「ジョージ・ソロス氏の4倍」の純資産があると紹介されたクラブメンバーについて、クライブ・ホームズ氏はたった50万ドルしか最初のディールに投資されなかったといら立ちをあらわにした。

「私の車のほうがこれより高い!」とホームズ氏は12年8月の電子メールでシティのバンカーに不満をぶつけている。

シルバーファーンが顧客に提供した投資に含まれていた石油・ガス部門の案件は、その後の成績が芳しくなく、クラブメンバーは希薄化を回避するための追加投資を求められた。シルバーファーンは後の裁判で、これはセクター全般の低迷に伴うものだったと説明した。

双方の言い分

しかしシティにとってクラブ最大の利点は、ディールのデューデリジェンスに同行が責任を負わず、単なる仲介役であることだった。バンカーらは顧客に対して何度も、取引について同行は意見を述べる立場にないと念を押していたことが電子メールに残されている。それでも顧客からは、うまくいかなかった投資について落胆の声を聞かされていた。

このクラブが最終的に集めた投資額はわずか2億2000万ドル。拘束力のないコミットメントの半分にも届かず、なかにはまったく手を引いてしまったクラブメンバーも複数いた。シティとシルバーファーンが法廷で争ったのは、何が原因でこうした不足が起きたかという点だ。シティの言い分では、顧客はシルバーファーンと投資ディールの成績に不満だった。一方のシルバーファーンはシティが意図的に顧客をディールから遠ざけたと主張した。

転換点は2016年に訪れた。ホームズ夫妻はシティと合意した条件に基づき、ファンドに近い別の投資プランにクラブメンバーを勧誘し始めた。シティはこのプランからも手数料を得る権利を持っていた。しかし4月にシティの幹部はクラブメンバーに、シティは新しいオファーに関与しておらず、サービスを提供しないとの書簡を送った。

手数料ストップ

香港在住のメンバーはシティの関与を評価していたため、クライブ・ホルムズ氏からのオファーは断るつもりだと、シティのバンカーに電子メールで伝えた。

シルバーファーンからシティへの手数料支払いがストップしたのは2018年終盤。対立は翌年、法廷に持ち込まれた。シティがクラブメンバーに送った書簡は中立的であり、シティはシルバーファーンに対する義務を果たしたと判事は認定。シルバーファーンはシティに900万ドルを支払う義務があるとの判断が下った。

このクラブが発足して以来、PE投資会社による富裕層顧客争奪戦はいっそう激しくなったと、シティのガルシアアユソ氏は昨年9月の法廷証言で振り返った。

「当時のメンバーリストを眺めると、このうち当行とPE投資を行った顧客はもう数年間にわたってゼロではないかと思う」と語った。

原題:Citi’s Private Equity ‘Club’ Underwhelmed Billionaire Members(抜粋)

--取材協力:Benjamin Stupples.

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