日本貿易振興機構(ジェトロ)の石黒憲彦理事長は、トランプ米大統領の関税政策は米国のインフレを悪化させ、日本企業の対米投資のハードルを上げる可能性が高いとの見方を示した。これは投資を呼び込んで米製造業を復活させるというトランプ氏の狙いと相反するという。

石黒氏によれば、関税の引き上げに伴って資材や製品の価格が「極めて高く」なり、米国内での事業コストが上昇する。一方、トランプ氏による移民規制は人手不足を悪化させ、労働コストを押し上げる可能性が高い。

石黒氏は18日のインタビューで、「事業環境として必ずしも良いとは思えない」と指摘。実際に現地企業にヒアリングすると、一部の労働者がいなくなるのではないかと心配している会社もあることが分かったという。

日本政府は米国に関税の適用除外を申し入れたが、米国は先週、鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する追加関税を発動した。4月2日には相互関税と自動車などセクター別関税に関する発表が予定されている。

経済産業省出身の石黒氏は、「トランプ氏の関税政策で、公正で自由なルールに基づく貿易秩序が損なわれることは間違いない」と指摘。「特に自動車関税は日本経済に与えるインパクトは大きいだろう」と述べた。

石破茂首相は2月に行われた日米首脳会談後の共同記者会見で、対米投資額を1兆ドル(約150兆円)に引き上げる意向を表明。日本の対米直接投資残高は2023年末時点で約7830億ドルと、投資国別では5年連続で首位を維持した。それでも日本は米国による関税賦課を免れていない。

石黒氏は、安全保障面で日本が米国に依存していることを踏まえると、欧州諸国や中国とは異なり、米国に対して報復措置を取る可能性は低いと指摘。関税措置の回避や影響を最小限に抑えるため、日本政府はトランプ氏にどのような追加提案を行うべきかについて、石黒氏は詳細な説明を控えた。

頭の体操

石黒氏によると、2月にジェトロに設置された相談窓口には、トランプ氏の関税政策に関する情報を求める企業からの問い合わせが約300件寄せられている。解決策は、製造拠点を米国に一斉に移転するといった単純なものではないため、企業は対応策を検討しているという。

石黒氏は日本の自動車メーカーを念頭に、「サプライチェーンをいじるのは結構大変なこと」であり、「少なくとも2年ぐらいかかる」と指摘。トランプ氏の発表内容は「ころころ変わるので、今はとにかく頭の体操をしながら様子を見ている状況だ」と述べた。

米国が保護主義に傾く中、日本政府は30年までに対日直接投資残高を100兆円とする目標を掲げている。23年は約50兆5000億円だった。最近の投資増加は、米マイクロン・テクノロジーなど、日本政府が補助金を出す外国半導体メーカーがけん引している一面がある。

トランプ氏は、国内半導体業界支援法(CHIPS法)に基づく半導体メーカーへの補助金の打ち切りを求めており、米半導体メーカーの海外投資意欲をそぐ可能性がある。石黒氏は、海外の大手テクノロジー企業を誘致するために日本はある程度の資金支援を続けるべきだとの考えを示した。

石黒氏は、米国と比較して「日本ほど安定した政策をとっているところはない」と指摘。米国の政策の変化は日本にとって「ひょっとしたら追い風かもしれない」と語った。

原題:Trump Tariffs to Raise Bar for Investment in the US, JETRO Says(抜粋)

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