生成人工知能(AI)のブームに乗り、ソフトバンクグループの株価が再び史上最高値を更新すると多くのアナリストや投資家が描くシナリオは、中国のスタートアップであるDeepSeek(ディープシーク)が開発した高性能AIモデルの登場という脅威にさらされている。

ソフトバンクGの孫社長とオープンAIのアルトマンCEO

ソフトバンクGは、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を作ったオープンAIやソフトウエア企業のオラクルと米国でのAI開発に最大5000億ドル(約77兆円)を投資する「スターゲート」合弁事業を進めている。低コストで高性能のAIを実現したディープシークの存在は、こうした巨額の投資が本当に必要なのかどうか疑問を呈する格好となった。

フィボナッチ・アセット・マネジメント・グローバルのユン・ジュンイン最高経営責任者(CEO)は、ディープシークが世界のAI関連株に短期的な調整を強いる影響をソフトバンクG株も受けざるを得ないとみる。AI関連株は長期的には再び上昇するはずだが、焦点は収益化にあり、「それには何年もかかるだろう」と言う。

ソフトバンクGが12日に発表した第3四半期(2024年10-12月)決算は、AI関連企業に投資するビジョン・ファンド(SVF)事業の不調で3692億円の純損失と再び赤字に転落した。アナリストによる今後の収益予測は、昨年11月下旬のピーク時から約20%低下している。

ブルームバーグのデータによると、決算発表後もカバーアナリストの7割以上が依然強気の投資判断を維持し、目標株価の平均は1万2430円と昨年7月の上場来高値(1万2180円)を上回り、13日終値よりもおよそ30%高い。ただ、弱気の投資家も徐々に増えており、S&Pグローバルのデータでは発行済み株式総数に対する空売り比率が11日時点で3.8%と2年弱ぶりの高水準付近にある。

ソフトバンクG株は、孫正義社長がスターゲート合弁事業の開始を発表した1月下旬におよそ半年ぶりとなる1万円の大台を回復したが、その数日後にはディープシークショックで急落に見舞われた。

フィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は、巨額投資の多くをソフトバンクG自身が負担することになり、調達金利の重さなど「スターゲートにはかなりマイナス要素がある」と分析。脅威となった中国のディープシークについては、データセンターでの電力をそれほど多く必要としない可能性があるとの認識を示した。

ジェフリーズ証券アナリストのアツール・ゴヤール氏は、スターゲート合弁事業の資金負担がこれまで株価を維持するために頻繁に行ってきた自社株買いを制限する可能性があるとみている。

アームの力

ソフトバンクG株に対し強気の見方が根強い理由の一つは、同社が引き続き88%の株式を持つ半導体設計会社の英アーム・ホールディングスの存在だ。13日の米国株市場でアーム株は一時8%超上昇。同社が新しい半導体の初期顧客としてメタ・プラットフォームズを確保したと英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた。

スパークス・アセット・マネジメントの武田政和ポートフォリオマネジャーは、アーム株は市場で10%しか流通しておらず、買うのが難しいと指摘。ソフトバンクG株は「事実上アームに投資するのと同じ効果があるが、大幅なディスカウント価格だ」と述べた。

アーム株は過去1年で約30%上昇し、12カ月先の予想株価収益率(PER)は約80倍の高水準に達した。ソフトバンクG株と同様、スターゲートの発表を受けおよそ半年ぶりの高値となる180ドル台に急伸したが、その後は調整している。

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、マービン・ロー氏はディープシークの低コストでオープンなモデルの出現でこれまでのAI市場の潜在成長力に対する見方が揺らぎ、株式投資家のAI熱を冷ますかもしれないと懸念する。結果的にソフトバンクGのビジョン・ファンドの投資パフォーマンスが抑制され、スターゲートへの巨額投資も「短期的に利益を圧迫する可能性がある」と指摘した。

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