中国の人工知能(AI)を巡る熱狂は、電子商取引大手アリババグループを再び投資家の人気銘柄に変えつつある。数年にわたる規制当局の締め付けで影が薄くなっていた同社に新たな息吹を吹き込んでいる。

アリババの香港上場株は1月13日に年初来安値を付けて以降、46%急伸し、時価総額は前日終値時点で870億ドル(約13兆4300億円)近く拡大。同期間で25%値上がりしたハンセンテック指数と比較しても上昇が目立っている。中国のテクノロジー大手でも、テンセント・ホールディングス(騰訊)や百度(バイドゥ)、JDドットコム(京東)の株価パフォーマンスを大きく上回る。アリババ株は2月13日にさらに9.2%上昇し、2022年以来の高値を付けた。

当局によるハイテク大手への締め付けや新型コロナウイルス禍後の消費低迷に苦しみ、投資家からの注目を失っていたアリババにとっては、予期せぬ株価反転となった。背景には、独自のAIサービスとプラットフォームを開発する同社の取り組みに対する楽観的な見方があり、中国のAIスタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)の登場で勢いがさらに増した。

米アップルが中国でのAI機能搭載に向けてアリババと協力していると、米メディアのジ・インフォメーションが報じたことで、アリババ株は12日に大きく上昇した。

第一財経の報道によると、アリババ共同創業者の蔡崇信会長はアップルとの協力を確認した。蔡氏は、アップルがiPhoneでのサービスのために中国国内の現地パートナーを必要としており、複数の企業と協議した結果、アリババを選んだと話したという。

ソロモンズ・グループのアジア太平洋担当投資・ESGディレクター、アンディ・ウォン氏は「ディープシークの登場で、中国テクノロジー銘柄にとっては新たなAI関連の起爆剤がもたらされた」と指摘。「この分野では、中期的にアリババがより具体的で確立された利益成長の見通しを備えているとわれわれはみている」と述べた。

アリババによる取り組みは今年1月、初期の成果を上げた。同社は「Qwen 2.5 Max」のベンチマークスコアを公表し、さまざまなテストで米メタ・プラットフォームズの「ラマ」やディープシークの「V3」モデルを上回るスコアを記録。アリババは現在、テンセントや字節跳動(バイトダンス)など大手のほか、ミニマックスや智譜などスタートアップと並んで、AI分野の有力企業の一角と見なされている。

だが、これは始まったばかりだ。

中国のAI企業が直面する主なハードルは、国内の消費者や企業でサービスの導入が遅れていることと、サービスへの支払い意欲が低いことだ。

JPモルガン・チェースのアレックス・ヤオ氏らアナリストはリポートで、「多くのヘッジファンドやロングオンリー投資家はAIをアリババの潜在的な転換点と見ており、同社のクラウド事業のバリュエーションや大規模言語モデル(LLM)による上値余地の見極めに関心を示す向きもある」と分析。「AIに関するストーリーは潜在的な再評価の原動力と考えられるが、収益化については懸念がある」と話す。

20日発表されるアリババ決算は、投資家にとって同社のAIモデルの進捗(しんちょく)状況やクラウドサービスの見通しについて知る新たな機会となる見通しだ。

アリババ株のバリュエーションは、今回の値上がり後も一部の投資家にとっては魅力的だ。予想株価収益率(PER)は12.2倍となっており、同社株の5年平均の14.6倍を下回っている。

ストレーツ・インベストメント・マネジメントのマニシュ・バルガバ最高経営責任者(CEO)は、「アリババ株は今回のラリーにもかかわらず、その成長性とマーケットポジションを考慮すれば、米国の同業テクノロジー銘柄と比べてなお割安だ」と指摘。「アリババは海外市場を拡大しており、中国国内市場への依存度を下げ、将来の成長のけん引役となる可能性がある」と述べた。

原題:Alibaba Becomes China’s AI Darling With $87 Billion Rally (1)、Alibaba’s Joe Tsai Confirms Cooperation With Apple: Yicai (1)(抜粋)

(蔡会長の発言に関する報道を追加して更新します)

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