(ブルームバーグ):米コカ・コーラのシカゴ・オフィスで目立つのは米国を象徴する赤いロゴではなく、巨大なカウベルだ。ここで「スーパーテイスター」と呼ばれる専門職員が試飲するのは、コーラやスプライトではなく、牛乳だ。
普通の牛乳とは少し異なる。「フェアライフ」はろ過技術により牛乳のタンパク質を強化し、糖分を半分に減らし、ラクトース(乳糖)を除去。普通の牛乳よりクリーミーな味わいだとファンは評価する。フェアライフはコカ・コーラの事業で最速ペースの成長を果たし、脱ソーダを図る同社の成長に欠かせない商品となった。
8年近く前から同社経営のかじ取りを担うジェイムズ・クインシー最高経営責任者(CEO、60)は「偉大なビジネスに花開いた」とフェアライフを語った。

クインシーCEOが就任以来取り組んできたのは、健康志向の広がりでソーダが時代遅れとなる中、コカ・コーラを「総合飲料」メーカーにすることだ。コーヒーやスポーツ飲料にも力を入れてきたが、フェアライフの成功は抜きんでている。普通の牛乳に比べ価格は約3倍だが、2022年の小売売上高は10億ドル(約1520億円)を上回った。全米販売を開始した15年の9000万ドルから1000%の増収だ。
しかしこれだけではウォール街を味方につけられない。コカ・コーラは年間で約460億ドルを売り上げる飲料大手だ。売上高の約60%をソーダ類に依存しており、その比率は6年前からびくともしていない。同社は11日に四半期決算を発表する。製品多様化の進展について、投資家は最新の情報を得られるだろう。
一方でライバルのペプシコは売上高の約60%を、スナック菓子などの食品ブランドに依存しており、コカ・コーラとはかなり違う状況だ。ペプシコも消費者の健康志向を乗り切るのに苦戦している。
市場全体から見ればコカ・コーラ株は著しく見劣りがする。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)となった2020年2月以降、S&P500種株価指数は80%上昇し、コロナ禍前の水準も上回った。コカ・コーラ株はこの間約6%の上昇。ペプシコはほぼ変わっていない。

フェアライフが大きく伸びた時期は、糖尿病治療薬「オゼンピック」が一世を風靡(ふうび)したタイミングと重なる。減量のためにGLP-1受容体作動薬を投与されている人は、筋肉を維持するためにたんぱく質の摂取を推奨される。フェアライフ1カップにはたんぱく質が13グラム含まれ、通常の牛乳に含まれる8グラムより多い。たんぱく質の量が格段に多い(1カップ約24グラム)シェイク「コアパワー」も、フェアライフは消費者に提供している。

コカ・コーラ経営陣はフェアライフ現象を「牛乳のプレミアム化」と表現。「お金が天から降ってくる」と述べた。
フェアライフ人気はすぐに火が付いた。長引くインフレの中で消費者の節約志向が高まる中でさえ、高価格にもかかわらず成長を続けている。
フェアライフの快進撃に不安がないわけではない。コカ・コーラは2020年に大手酪農協同組合セレクト・ミルク・プロデューサーズから、合弁事業の過半数持ち分を約10億ドルで取得した際、2025年末までの業績に応じた支払いにも同意した。酪農協に支払う予定額はわずか3カ月で9億ドル余りも増加し、コカ・コーラの営業利益率は大きく押し下げられた。
原題:Coke’s $7 Billion Milk Bet Leaves Wall Street Wanting More Wins(抜粋)
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