国際通貨基金(IMF)は7日、日本経済に関する審査(対日4条協議)終了後に公表した声明で、財政健全化に向けて明確な計画が必要だとの認識を示した。日本の常態化した補正予算編成について苦言を呈すとともに、金利上昇を見据えた強固な債務管理戦略の重要性にも触れ、日本の財政運営に警鐘を鳴らした。

声明では、「少数与党下での政治的要求を踏まえると、赤字がさらに拡大する大きなリスクがある」と指摘。いかなる拡張的な財政措置も歳入の増加や歳出削減で相殺されなければならないとし、「強固な中期財政枠組みにおいて、具体的で信頼性のある歳出・歳入措置を組み立てることが必要」と明記した。

さらに、エネルギー補助金といった「よく的が絞られていない補助金」は廃止すべきだと主張。毎年のように編成する補正予算は「予算の透明性、財政規律を損なうもの」と断じ、「自動安定化装置を超えるような予期せぬ大きなショックへの対応に限定すべきだ」とした。

IMFの日本ミッションチーフを務めるナダ・シュエイリ氏は、6日都内でブルームバーグの単独インタビューに応じ、日本はショックに対処するための財政余地が限られており、財政赤字を増やさずに歳出ニーズに対応する余地をどこに見いだすかを「いま計画する必要がある」と語った。

IMFによれば、日本の公的債務の対国内総生産(GDP)比は25年に232.7%と世界で最悪の水準にある。同年度に黒字化目標を掲げる(プライマリーバランス、PB)は直近の政府試算で赤字の見通しとなっており、財政健全化の足取りの鈍さを改善するよう第三者の国際機関から改めて忠告された形だ。

財務省が1月に示した試算によると、一定の経済前提を置いた場合に今後3年間で国債の利払い費が5割余り増加する見込み。日本銀行による金融政策の正常化に伴った金利上昇が想定されるため、シュエイリ氏は「政府は利回り上昇に備える必要がある」と指摘した。一方、緩やかな利上げペースは当面のリスクを軽減するとの見方を示した。

IMFのギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は7日、声明発表後の記者会見で、「われわれの非常に強い忠告は、いま財政再建に着手することが日本にとって極めて重要だということだ」と指摘。その上で、25年度予算を巡る国会での議論が財政健全化の取り組みのスタートを示すような状態にまとまることを期待していると述べた。

国会では、一般会計総額が115兆5415億円と過去最大となる25年度当初予算案に対し、野党側が修正や組み替えを求めている。立憲民主党は野党各党の修正要求に与党が「ゼロ回答」なら採決に応じない構えを示している。

IMFによると、日本のPBの対国内総生産(GDP)比は2025年にマイナス2.2%と、昨年の同2.1%から若干悪化する見通し。

シュエイリ氏は、「わずかな悪化ではあるが、それでも間違った方向だ」と指摘。財政収支が持続可能な状態を保つためには「中期的に財政赤字が減少傾向となる必要がある」とした。

IMFは毎年、加盟国の政府当局と経済財政政策について協議しており、今回の声明はその初期評価との位置付けだ。総括では日本が直面する課題について高齢化と多額の公的債務を挙げ、財政余力の再構築などを求めた。

物価2%へ「正しい道」

声明では金融政策についても分析。現在0.5%程度としている政策金利は27年末までに、景気を刺激もせず冷ましもしない中立的な水準に達すると予測した。政策金利がまだその水準に届いていない現状を踏まえ「現在の緩和的な金融政策スタンスは適切」とした。物価見通しは25年終盤に日銀目標の2%に収れんするとみている。

日銀は1月に昨年7月以来の利上げで政策金利を17年ぶりの0.5%程度とした。経済・物価が見通し通りに推移すれば、利上げで金融緩和度合いを調整していく方針を維持している。

シュエイリ氏は、日本が中期的に安定した物価上昇を達成するとの見通しに自信を深めていると述べた。インフレ期待の高まりや消費の伸び、需要主導の価格上昇圧力などの兆候を要因として挙げた上で、「これらは持続可能な2%のインフレに向けて正しい道を進んでいるというわれわれの確信を維持する回復の兆しだ」と語った。

(IMF筆頭副専務理事の会見内容を追加して更新しました)

--取材協力:藤岡徹、横山恵利香、野原良明.

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