三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の十川潤グループCFO(最高財務責任者)は、同社の株価水準はまだ割安で、さらなる利益成長が必要だとの認識を示した。海外の主要銀行と伍していくためアジア事業などへの成長投資を継続していく方針だ。

2025年3月期(今期)の連結純利益は金利上昇や円安を追い風に1兆7500億円と過去最高を更新する見込みで、株価も上場来高値を約19年ぶりに更新したばかり。十川氏はブルームバーグとのインタビューで、それでも投資家には「われわれはまだまだアンダーバリュー(割安)だ」と言い切っていると話す。

MUFGの十川潤グループCFO

世界の投資家から適正な評価を受けるには、投資家との対話を重ねるとともに、実態を数字で示す必要がある。MUFGが念頭に置くのは株価純資産倍率(PBR)や株主資本利益率(ROE)などの改善や向上だ。

こうした指標では、金利など収益環境に違いはあるものの、MUFGと一部の欧米銀とはまだ差がある。MUFGのPBRは1.1倍で、モルガン・スタンレーの約2.4倍を下回る。十川氏は仮に持ち分法適用会社であるモルガンSの連結業績へのプラス影響を除くと「まだ0.8か0.9倍しかない」と説明する。

国内でライバルの三井住友フィナンシャルグループ(FG)やみずほFGのPBRは1倍前後と、モルガンSの影響を除いたベースのMUFGより高く、同社が自社株買いを継続する背景の一つにもなっている。ただ「全体のPBR1.2倍は見えており、しっかり成長すればその先もある」と自信を示した。

 

政策株売却のいまが好機

日本ではガバナンス(企業統治)や資本効率改善の観点から政策保有株(持ち合い株)の削減が続き、MUFGでも売却益が利益を底上げしている面もある。十川氏は「次の次の中期経営計画辺りで、限りなく売却益はゼロになる」と述べ、30年代前半に売却益が枯渇しても高い財務指標を達成する必要があると危機感を示した。

このため、多額の売却益があるうちに、株主還元やガバナンス強化などへの「守りの資源配分はしっかり行いつつ、継続的な成長投資が必要だ」と強調した。これまで出資してきたアジアのフィンテック企業各社が成長して利益を上げることもROE向上などの面で重要とみている。

アジア戦略を統括する板垣靖士執行役専務は昨年11月のインタビューで、インドを含めたアジア地域でコンベンショナル(伝統的分野)とデジタル分野の両面でM&A(企業の合併・買収)が必要だとの認識を示し、1件当たり数千億円の投資もあり得ると話している。

投資家層に変化

十川氏は1月に欧米を飛び回り、約30社の投資家と面談した。今年度を通して見ても個別面談は増えており、前年度比1.5倍の1200件程度に上っている。

同氏によると、MUFGの株主構成には変化が見られ始めたという。低金利時代では、割安な株を買い集める投資家や投資信託を含むファンドの保有割合が多かったが、足元では今後の成長に期待するグロースファンドによる保有が増えてきたとしている。

日本株ファンドだけではなく、グローバルセクターにまたがり幅広く投資するファンドも目立ってきたとし、十川氏は「こうしたファンドがMUFGに興味を持つのは非常に前向きな話だ」と分析。その分、「われわれも欧米銀との対比で何が差別化できるのかを問われている」との認識を示した。

(主要指標に関するチャートを追加しました)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.