FRBへの圧力

インフレ抑圧のためには、楯としてのFRBの役割が重要である。2024年中は、景気悪化の兆候に対して利下げで応じた。うまく景気不安を払拭させたパウエル議長の采配はさすがだと思える。だが、正念場はここからだ。潜在的なインフレ圧力を制御しながら、なるべく利上げをしなくてもよい状態をどうやって継続していけるだろうか。

現在、トランプ大統領は、米政府内でもバイデン政権で主要政策を担った人々を交代させる圧力を強めている。1,000人以上を解任するとも言っている。こうした人事介入をみて、FRB自身、自分たちが安泰だとは思っていないだろう。

そもそもトランプ大統領は、金融引き締めを嫌っている。1月23日にダボス会議でビデオ演説して、金利の即座の引き下げを要求すると吠えている。特に、原油価格が下がれば、利下げができるだろうと自信満々に述べている。FRBの政策決定にも介入を厭わない姿勢なのである。

今後は、FRBの運営に対しても、人事を含めて介入してくることもあり得る。こうした政治的な変化は、米長期金利が下がったことにも表れている。短期的には、ドル安への反応が起こっている。

実は、FRBには、トランプ大統領就任以前から、微妙な変化の兆しが見え始めていた。銀行規制を主導してきたバー副議長(金融規制担当)は辞任した。これまでタカ派とみられていた理事も、ハト派に変わってきたように見える。FRBを外側からみていると、見えない変化が内部では起きている可能性が高い。つまり、トランプ政権が発する強力な磁力は、すでにFRBの政策運営にも何らかの地殻変動を生じさせているのではないか。

筆者は、中長期的には米長期金利は上がっていき、ドル高になると予想するが、短期的には政治的な意向が強く働いて、株高・ドル安になる局面も起こるだろうとみている。達観してみると、米長期金利は意図的にコントロールできるものではなく、インフレ圧力の影響から、金利上昇の方向へと動いていくとみられる。ドル円レートも、いずれ再び1ドル160円を超える展開が来ると予想する。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)