日本銀行の氷見野良三副総裁は14日、来週の金融政策決定会合で追加利上げを行うかどうかを議論する考えを示した。利上げを議論すると明言したことは、市場における1月会合での追加利上げ観測を後押ししそうだ。

氷見野副総裁は横浜市内で行った講演で、「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要だ」とし、23、24日の会合では経済・物価情勢の展望(展望リポート)の経済・物価見通しを基礎に「利上げを行うかどうか議論し、判断したい」と言及。日銀の経済・物価見通しが実現していけば、今後も政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく方針も改めて示した。

植田和男総裁は、追加利上げを巡る判断で春闘など賃上げの動向と20日に始動するトランプ米政権の経済政策による影響などを注視する考えを示している。執行部である副総裁が利上げの是非を会合で議論すると講演で言及するのは異例で、市場の臆測を強める材料となり得る。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、今回の発言を踏まえると、1月利上げを排除していないと指摘。その上で、「トランプ次期米大統領の就任後の市場動向を見て、動けそうなら来週利上げに踏み切る可能性もある」と語った。

金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS) 市場で、追加利上げ時期の予想は1月会合が6割程度、3月会合が2割台となっている。1月会合前では最後とみられる政策委員による発言の機会として、氷見野氏の講演と記者会見に関心が集まっていた。

赤沢亮正経済再生相は14日の閣議後会見で、氷見野氏が1月会合で利上げを行うかどうかを議論すると述べたことに関連し、日銀の利上げに向けた姿勢とデフレ脱却を目指す政府の方針は矛盾しないとの見解を示した。金融政策の具体的な手法は「日銀に全て任せている」としつつ、政府・日銀は「よく連携している」とも述べた。

国内の注目点の一つである春闘など2025年度の賃上げ動向について、氷見野氏は高水準の企業収益や人手不足、最低賃金の引き上げなどを踏まえ、24年度に続く強い結果への期待を表明。各種のアンケート調査でも、賃上げ予定比率や賃上げ率は前年並みないし前年を上回る結果が多いと語った。

日銀が9日に開いた支店長会議では、追加利上げの重要な判断材料となる25年度の賃金設定について、構造的な人手不足の下で、継続的な賃上げが必要との認識が幅広い業種・規模の企業に浸透してきているとの報告が多く示された。

氷見野氏は海外の注目点である米新政権の政策が海外経済や日本経済に与える影響に関しては、「来週の就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないか」と述べた。米経済は当面強いパフォーマンスが続くとの見方が多いとも指摘した。

午後の記者会見では、経済・物価が日銀の見通しに沿って進んでいく確度は徐々に高まっているとし、1月会合では利上げするかどうかが議論の焦点になると説明。また、米経済は引き続き堅調に進むというのがメインシナリオとし、トランプ氏の就任演説を見た上で「確度を確かめていきたい」と語った。

対話

金融政策のコミュニケーションを巡っては、昨年7月の利上げが市場にサプライズを受け止められ、その後の金融市場が大きく動揺した経緯がある。

氷見野氏は講演で、意図してサプライズを起こすことは、危機時など認識を大きく転換すべき場面を除き、望ましいことではないとし、市場との予想がかい離すれば、市場が混乱することも考えられると語った。一方で、「だからといって毎回の会合の結論について、事前に市場に完全に織り込んでもらえるようにコミュニケーションをとるべきだということにはならない」とも主張した。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは、氷見野氏の講演と会見について、利上げを議論する考えを示し、賃上げは明るい材料が多いなどと話す一方、1月の利上げを強く示唆していないとして、日銀が金融政策の自由度を確保しておきたいことの表れではないかと述べた。トランプ氏の就任演説と市場の反応などを踏まえて政策判断したいということではないかとみている。

氷見野氏は23年3月に内田真一氏と共に副総裁に就任。大蔵省(現財務省)出身で、20年から約1年間、金融庁長官を務めた。昨年10月にブルームバーグ東京支局のイベントで講演した際には、利上げのタイミングは経済・物価・金融情勢の推移次第だとし、最初からコースが決まっているわけではないと述べていた。

(記者会見での発言とエコノミストコメントを追加して更新しました)

--取材協力:日高正裕、梅川崇、山中英典.

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