【ベトナム】

ベトナム経済は、過去2四半期は輸出と製造業に支えらえて景気が加速しており、7-9月期の成長率が前年同期比+7.4%と、欧米向けの輸出が落ち込んだ2023年の前年比+5.0%から上昇している。

7-9月期は主に鉱工業の改善が成長率上昇に繋がった。製造業(同+11.41%)は電子部品やスマートフォンなどのIT関連需要の増加により外資系企業の出荷が伸びて好調だった。サービス業(同+7.51%)はビザ規制の緩和や滞在可能期間の延長といった観光促進策によりインバウンド需要が回復し、モノの貿易量も増加したことにより運輸・倉庫業(同+11.07%)と宿泊・飲食業(同+8.75%)が好調を維持した。インフレの鈍化や労働市場の改善、最低賃金の引き下げ、そして付加価値減税の継続などにより家計の購買力が向上して卸売・小売業(同7.97%増)が堅調に拡大した。不動産市場は回復傾向にあるが、不動産(同+3.89%)は緩やかな伸びにとどまり、建設業(同+7.09%)は増勢が鈍化した。

先行きのベトナム経済は、輸出拡大や不動産市場の回復により堅調な景気が続くと予想する。米中対立を背景に多国籍企業のベトナム進出が続いており、1-11月累計の海外直接投資(FDI)認可額(同+1.0%)は好調だった前年並みの高水準で推移している。また外需の増加も加わり、製造業生産は堅調に拡大するとみられる。またビザ優遇政策や観光促進策により観光業が引き続き回復すると予想される。内需の勢いは旺盛な外需と比べると弱いが、ベトナム政府の景気刺激策によりサービス業や建設業などの内需中心の産業も堅調に推移するだろう。政府は付加価値税の2%減税の継続や公共投資の拡大(2025年度は前年比17%増)など財政政策により経済を活性化させようとしており、7月には民間企業の最低賃金が平均+6%、公務員の基礎賃金が+30%引き上げられている。不動産市場は回復が遅れているが、今年8月には不動産関連3法が施行されたほか、不動産向けの与信が伸びており、今後も市場の回復が進む展開を予想する。

金融政策は、ベトナム中銀が2022年に累計+2%の利上げを実施したが、景気減速を受けて昨春に累計1.5%の利下げを実施、その後は政策金利を4.5%で据え置いている。11月の消費者物価上昇率は前年同月比+2.8%となり、政府の価格統制の影響により3ヵ月連続で2%台後半にとどまっている。先行きのインフレ率は景気の改善により再び加速するとみられるが、2025年通年では政府目標(+4.5%以内)に収まるだろう。ベトナム中銀はドン安を警戒しつつ、現行の緩和的な金融政策を維持すると予想する。

実質GDP成長率は2024年が前年比+7.0%(2023年:同+5.0%)と上昇、政府が7月に再設定した成長目標の+7.0%に到達するが、2025年が6.5%となり増勢が鈍化すると予想する。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠)