原子力関連株は過大評価だと警鐘を鳴らし、今年の驚異的な上昇局面後に投資を縮小しているヘッジファンドがある。

オーストラリアのシドニーを本拠とするトライベッカ・インベストメント・パートナーズや米フロリダ州パームビーチのセグラ・キャピタル・マネジメントは最近、原子力テクノロジー開発企業や公益事業会社への投資を減らした。

トライベッカのポートフォリオマネジャーで、「ニュークリア・エナジー・オポチュニティーズ・ストラテジー」のロング・ショート戦略を統括するガイ・ケラー氏はインタビューで、「こうした銘柄の一部急騰を懸念」しており、自身が抱える「リスクを下げる」ことが今は妥当だと指摘した。

原子力への投資は、今年大きく注目されたエネルギーテーマとして浮上。人工知能(AI)の台頭とAIを動かす巨大なデータセンターの必要性を踏まえ、原子力の未来は、大手テクノロジー企業の止めようのない躍進としっかりと結び付いている。

同時に、環境重視の投資家は、原子力を低炭素エネルギーへの移行に不可欠な要因として受け入れつつある。

米コンステレーション・エナジーの株価は今年、ほぼ倍増。閉鎖されていたスリーマイル島原子力発電所の再稼働計画が好感された。米ニュースケール・パワーは11月下旬に上場来高値を付けるまで、株価が800%余り急騰した。

米トール・ツリーズ・キャピタル・マネジメントの創業者兼最高投資責任者(CIO)リサ・オーデット氏は、米オクロやニュースケールのような小型モジュール炉開発企業に対し、株価下落後も「慎重」な姿勢を保っていると述べた。

オクロは対話型AIの「ChatGPT(チャットGPT)」を開発した米オープンAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマン氏らが出資している。

IHSマークイットのデータによれば、発行済み株式に対する空売り比率は現在、オクロが約17%、ニュースケールで約15%。コンステレーションでは1%未満となっている。

オーデット氏は原子力テクノロジーについて、「とても長期的なチャンス」だが、株価が「非常に急騰」したとし、トール・ツリーズは原子力セクター全般について楽観的だが、「2020年代末にモジュール型原子力が意味を持つようになるとは考えていない」と話した。

国際エネルギー機関(IEA)によると、小型モジュール炉は大規模原子炉よりも早く安価に稼働にできるよう意図されているが、技術はまだ開発中で、30年代に入るまで最初の商業プロジェクトは実現しそうにない。

トランプ次期政権

ウォール街の他企業も警戒を強めている。JPモルガン・チェースのアナリストチームは10月に63ページのリポートを出し、原子力関連株が過大に宣伝されているリスクを警告。「NucleHype(核誇大宣伝)」という造語まで披露した。

だが、原子力とウラン分野で主に6億米ドル(約940億円)の資産を運用するセグラのポートフォリオマネジャー、 アーサー・ハイド氏は、ウランの「脆弱(ぜいじゃく)で断片化」されたサプライチェーンが「25年にはプラスの価格圧力をもたらすはずだ」とみている。

ウラン価格は今年2月のピークから3割ほど下落。34億米ドル規模の上場投資信託(ETF)「グローバルXウラニウムETF」は今年の上昇率を1.4%に縮小した。23年は38%近く値上がりしていた。

ハイド氏は、一部の鉱山会社は今や売られ過ぎだと分析。しかし、原子力テクノロジー関連の評価額は依然として「比較的高い」ため、「新年に向けてこれらのバリュエーションを支えるには多くのグッドニュースが必要になる」との見方を示した。

セグラは10-12月(第4四半期)に米国の公益事業およびテクノロジー企業の保有を縮小し、米国とカナダ、豪州の生産・開発会社へのエクスポージャーを拡大した。

原子力・ウラン部門に2億豪ドル(約196億円)余りの投資を行っているトライベッカのケラー氏は自身のファンドについて、大手テクノロジー企業が最終的に原発を動かすために必要なサプライチェーンへの投資を増やすとの見通しから、ウラン資産に大方傾斜していると語った。

「上流の供給を確保する必要があることにハイテク勢が気付くまで、そう長くはかからないだろう」と述べ、「一つの取引が成立すれば、他社も全て参入してくる」と予想した。

セグラとトライベッカは、トランプ次期米政権の原子力に対する姿勢を建設的と捉えている。「トランプ政権は原子力推進派になると私はかなり確信している」とケラー氏は話した。

原題:Hedge Funds Cut Nuclear Technology Exposure After ‘Hard’ Rally (2)(抜粋)

--取材協力:Will Wade、John Cheng.

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