米フロリダ州マイアミを拠点とする運輸・物流会社の最高管理責任者を退いたグレゴリー・グリーン氏(64)は、退職金を自分で管理したくなかった。

「自分の財務状況を長時間監視するつもりも、興味もない」ため、「作業を外注した」という。

こうしたケースでは、投資信託や上場投資信託(ETF)を活用する人が多いが、友人から紹介されて同氏がフロリダ州で依頼したファイナンシャルプランニング会社チーム・ヒウィンズは別の商品を提案した。「セパレートリー・マネージド・アカウント(SMA)」と呼ばれるものだ。

SMAは投資信託と同様、プロの運用者によって管理されるポートフォリオだ。 投信との違いは、各顧客がポートフォリオ内の有価証券を直接所有することだ。この特徴から、SMAは投資家の税務事情や遺産計画、その他の投資方針に、より密接に適合させることができる。

約790億ドル(約12兆4000億円)を運用するファンドでETFも手がけるディメンショナル・ファンド・アドバイザーズは、チーム・ヒウィンズの顧客のためにいくつかのSMAを運用している。グリーン氏は自身の資産の3分の2をSMAに置いている。

SMAは、かつては機関投資家や米国の大富豪だけが利用できるものだったが、その障壁は急速に低くなりつつある。ディメンショナルは2021年に、口座の最低投資額を2000万ドルから50万ドルに引き下げた。

フィデリティ・インベストメンツは、カスタマイズは可能だが個別アドバイスは提供されないデジタルリテール版SMAポートフォリオを最低5000ドルから提供している。

業界コンサルタントのセルリ・アソシエーツによると、SMA全体では約3兆ドルの資産が集まっており、27年末までに5兆ドルに膨れ上がると予想される。

複数の口座を設計し管理するマネーマネジャーの業務を容易にするテクノロジーが、この変化の大きな要因だ。

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのダイレクトインデックス部門であるパラメトリックの共同社長兼最高投資責任者のトーマス・リー氏は「カスタマイズには複雑さが伴う。テクノロジーなしでは、何十万ものSMAを管理することはできない」と述べた。

ファイナンシャルアドバイザーは、特に「タックス・ロス・ハーベスティング」と呼ばれるテクニックを活用した節税方法としてSMAを売り込んでいる。

運用者は、利益の出ない資産を売却したキャピタルロスで別の資産のキャピタルゲインを相殺することで、税金を抑えることができる。売却した資産の代わりに類似の資産を購入すれば、投資戦略は維持できる。

大学や財団の理事会のメンバーでもあるグリーン氏は、慈善寄付も税務計画の一部にしたいと考えている。SMAを利用すれば、株式を売却せずに直接寄付することが可能だ。

SMAでは、自身の価値観に反する投資を除外したり、特定の企業や業界への投資を減らしたり増やしたりすることもできる。

手数料

しかしながら、ウォール街が「投資の民主化」ともてはやす他の商品と同様に、ほとんどの個人投資家にとっては必要のない追加手数料や複雑さについて専門家は懸念を示している。

SMAを利用するには多くの場合アドバイザーが必要になる。調査会社モーニングスターによると、資産加重ベースで計算した平均手数料は、全体で年約0.64%となっている。

これには、一般的な金融アドバイザーの手数料である約1%は含まれていない。これに対し、非常に節税効果の高いパッシブ型ETFの平均手数料は約0.13%だ。

SMAを顧客に販売する業務に以前従事していたリック・フェリ氏は「アドバイザーや資産運用会社が販売している商品のほとんどは、必要のない人にも売られ過ぎている傾向がある。人々の資産を管理するもっとシンプルな方法がある」と述べた。

それでも、テクノロジーによって既製のファンド商品とオーダーメードのSMAの間の境界線は今後もあいまいになっていくだろう。 すでに人工知能(AI)がその一端を担い始めている。

ニューヨークのブルックリン・インベストメント・グループは、同社のプラットフォームを利用するファイナンシャルアドバイザーの顧客向けにAIを活用してカスタムポートフォリオを速やかに構築し、その管理を支援している。

ブルックリンの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のエルコ・エトゥラ氏は、資産運用業務の最終段階には必ず人間が関与しなければならないが、「われわれのテクノロジーにより、ポートフォリオ管理を担当する1人1人が管理できる口座数を大幅に増やしながら、管理の質を向上させることができる」と話した。

(原文は「ブルームバーグ・マーケッツ誌」に掲載)

原題:Wall Street Is Selling Tailor-Made Portfolios to the Masses(抜粋)

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