(ブルームバーグ):利下げ期待を背景としたリスク資産上昇相場を引き起こしてからほぼ1年後、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は18日、その真逆の行動に出た。2025年の利下げについて慎重な見方を示し、投資家を驚かせた。
S&P500種株価指数は3%下落し、10年物米国債利回りは7カ月ぶり高水準となった。米連邦公開市場委員会(FOMC)が3会合連続の利下げを発表してからパウエル氏が会見を終えるまでの約90分の間に、株価は新型コロナウイルス感染症の流行以降で最悪のペースで下落した。2年余り続いたリスクオンムードの上昇相場が突然危険にさらされた。

混乱ぶりからは、一貫した政策緩和が資産価格を押し上げ続けると市場が信じ込んでいたことがうかがわれる。当局は今後12カ月に2回の利下げしか予測していないことが分かり、そうした期待はほぼ打ち砕かれた。投資家は今後の方針を練り直すことを余儀なくされた。
カーバチャー・セキュリティーズの債券責任者、トム・ディガロマ氏は「市場は今回のFRBの発表に備えていなかった。パウエル氏は中立へと姿勢を転換させ、次期米政権が政策を推進するのを見てから何をすべきかを考えるつもりだ」と述べた。
データが示す米経済の回復力やインフレの根強さから、18日の記者会見でパウエル氏が金融政策の新たな局面に言及したことは、まったくの不意打ちというわけではなかった。しかし、当局が利下げサイクル終了に近づいているように見えることに、市場は驚かされた。
スワップ市場が織り込む2025年の0.25ポイント利下げ回数は2回未満と18日に発表されたいわゆるドット・プロット(金利予測分布図)が示す当局者の見通しよりも少なくなった。 担保付翌日物調達金利(SOFR)に連動するオプション市場で18日午後に行われたブロック取引には、来年の利上げサイクル開始で利益が出るものさえあった。
スタイフェル・ニコラウスののストラテジスト、クリス・アーレンス氏は「当局は非常に保守的な方針を取るつもりのように見える。インフレは当局者らが考えていたよりも回復力があることが証明されており、目先の政治力学は短期的な予測の困難を大きくしている」と述べた。
ファセット・ウェルスの投資部門責任者、トム・グラフ氏は「FRBがインフレが低下しているという確信を取り戻すには時間がかかり、トランプ次期米大統領の政策はインフレの不確実性を高める」と指摘した。
外為市場では、ブルームバーグ・ドル・スポット指数が22年以来の高値に上昇。一方、ユーロ、ポンド、スイス・フランはいずれも1%以上急落し、オフショア人民元も23年以来の安値水準となった。
今年の利下げやトランプ氏への政策期待から上昇していた高リスク資産も急落した。ゴールドマン・サックス・グループがまとめる空売り比率の高い銘柄の指標は4.9%下落。不採算のテクノロジー銘柄のバスケットは6.4%下落した。10万8000ドルに迫っていたビットコインも下落し、アジア時間19日午前に10万ドルを割り込んだ。
チャールズ・シュワブのシニア投資ストラテジスト、ケビン・ゴードン氏は「通常、過熱したセンチメントが見られる場合、市場を転覆させるにはネガティブなきっかけが必要であり、今回はそれが米金融当局のタカ派的なトーンだった」と解説した。
ボラティリティーは急上昇し、CBOEのボラティリティー指数(VIX)は8月の波乱以来の高水準となる28を上回った。S&P500種の変動に備えるオプションの価格は急上昇し。VIXのコールの取引量はプットの2倍となり、VIXオプションのインプライドボラティリティーを測るVVIXも8月上旬以来の高水準を記録した。
銀行株も売られKBW銀行指数は4.3%安となった。
ハリス・フィナンシャル・グループのマネジングパートナー、ジェイミー・コックス氏は「株式市場は今回の会合を前にして、行き過ぎた動きを見せていた。休暇シーズン前に一部の人々を市場から退出させる良いきっかけになった」と話した。
原題:Wall Street Traders Rush for the Exit After Fed’s Rate-Cut Shift(抜粋)
--取材協力:Ye Xie、Edward Bolingbroke.
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