記事のポイント
・「ウイナー・テイクス・オール」だから「米国1強」はナラティブではないか?
・FRBの大幅利上げが他国の経済にダメージを与え、「米国1強」に寄与した可能性
・インフレ局面では「為替のスタビライザー効果」が機能しにくい
・世界経済の悪化でインフレが鈍化すれば、スタビライザー効果復活へ
「ウイナー・テイクス・オール」だから「米国1強」はナラティブではないか?
最近、米国経済はコロナ後のインフレ局面と利上げ局面で何度も生じたリセッション懸念を跳ね返してきたことから、ICT(情報通信技術)や人工知能(AI)といった最先端の技術による「ウイナー・テイクス・オール」のメカニズムによって「米国1強」の時代が続くという見方が増えているように思われる。
しかし、これは自明ではないと筆者は考えている。むろん、最先端の技術が成長の源泉となる中、IT分野で先行してきた米国が優位なのは事実だろう。しかし、特にコロナ後のインフレ局面は米国経済が有利だった重大な要素(ロジック)が他に2つある。この2つの切り口が「ウイナー・テイクス・オール」より重要かどうかは、現時点では分からない。しかし、少なくとも「ウイナー・テイクス・オール」だから「米国1強」であるという論調は自明であるとは言い切れない。
FRBの大幅利上げが他国の経済にダメージを与え、「米国1強」に寄与した可能性
1つ目の切り口は、FRBが自国優先の金融政策(大幅利上げ)を行ってきたことである。FRBは22年以降に大幅な利上げを実施し、米国の需要を抑制してインフレを鎮静化することを目指した。しかし、経済はほとんど減速しなかった。それでもインフレ率が鈍化したのは、そもそも一時的なインフレ要因が多かったことや、利上げによってドル高が進んだことで、輸入物価が低下したことが大きかった。また、忘れてはいけないのは、ドル高の反対側で通貨安に苦しんだ国・地域があったことである。日本でも円安が進み、実質賃金の低迷や金融政策の混乱が実質成長率に悪影響を与えたとみられる。FRBの利上げを起点に米国以外の国・地域の経済が弱り、需要が減少し、結果的に米国のディスインフレにつながった可能性が高い。そして、金融市場ではインフレ鎮静化で米国がリードしているように映り、米国にリスクマネーが流入した。そのリスクマネーが米経済を支え、結果的に米国は需要を落とさずにインフレ抑制に成功した。基軸通貨国である米国の金融政策が「米国1強」の状況を作り出したと、筆者は整理している。