韓国国会では、16日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領への2回目となる弾劾訴追案に対する採決が行われ、賛成票が204票(反対票85、棄権票3、無効票8)と在籍議員数(300議席)の3分の2を上回ったことで可決成立し、同日夜に尹大統領の職務停止が決定した。職務停止期間中は韓悳洙(ハン・ドクス)首相が職務代行を担うとともに、向こう180日以内に憲法裁判所が尹大統領に対する弾劾の可否を審理して、罷免の是非を判断することとなる。

尹大統領に対して弾劾訴追案が提出されたきっかけは、今月3日に尹大統領が突如「非常戒厳」を宣布し、その直後から野党を中心とする多数の国会議員が国会に参集して半数を上回る議員が戒厳の解除要求決議を可決したことで、結果的に数時間後に非常戒厳の解除を決定するなど混乱を招いたことにある。

なお、今月7日に国会において採決が行われた1回目の弾劾訴追案を巡っては、尹政権を支える与党で右派の「国民の力」所属議員の大宗が採決直前に国会を退出したため、結果として投票の成立要件が満たされず廃案に追い込まれた。しかし、直後から最大野党で左派の「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表を中心に弾劾訴追案の再提出を含めた対応を強化する方針を示すとともに、支持組織である労働組合を総動員する形でいわゆる「ろうそくデモ」を展開するなど、弾劾可決に向けた機運醸成を活発化させてきた。

尹氏は徹底抗戦の方針も…一部の与党議員が離反

1回目の弾劾訴追案を与党が廃案に追い込んだ背景には、直前に行ったテレビ演説において尹氏が戒厳宣布に伴う混乱を謝罪するとともに、法的政治的な責任を回避しないとしつつ、自身の任期を含めた今後の政局安定策について与党に一任する考えを示したほか、今後の国政運営について与党と政府がともに責任を以って行うとするなど、尹氏が一定の妥協を示すことで折り合いが付いていたことが考えられる。他方、与党・国民の力としても、共に民主党をはじめとする野党勢力に国民の支持が大きく流れるなか、共に民主党が目指す早期の次期大統領選入りを避けつつ、事態打開に向けた『時間稼ぎ』を図りたいとの思惑も一致したものと捉えられる。

しかし、2回目の弾劾決議案への採決では賛成票が204票となり、共に民主党をはじめとする野党議員が192議席であることに鑑みれば、国民の力から少なくとも12人の議員が離反したことが明らかである。この背景には、直近の世論調査において大半の国民が尹氏に対する弾劾に賛成である旨が示されるとともに、尹氏が採決の直前に明らかにした談話において戒厳決定を「正当な措置であり、弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう、戒厳令は司法審査の対象にならない統治行為であり、内乱罪に当たらない」と主張したことも影響したとみられる。

与党・国民の力は次期大統領選を睨みつつ『良いタイミング』での尹氏辞任により国民の理解を得ることを模索していたとみられるが、尹氏が徹底抗戦で臨む方針を示したことを受けて、一部の与党議員が離反する結果を招くとともに、今後は与党内における結束が揺るぐことで内紛などに発展する可能性も予想される。