(ブルームバーグ):韓国の尹錫悦大統領に対する2回目の弾劾訴追案が14日、国会本会議で可決された。これにより大統領の職務は一時的に停止された。尹氏は一時的な「非常戒厳」宣布で国民に衝撃を与え、強い非難を浴びていた。
尹大統領は訴追案可決後に国民向けのコメントを発表。「私は決して諦めない」とし、「今、しばらく立ち止まるが、過去2年半の間に国民と共に歩んできた未来に向けた旅は決して止まってはならない」と強調。「私に対する????責(しっせき)と励まし、応援をすべて心に抱き、最後の瞬間まで国家のために最善を尽くす」とした。

採決の結果は賛成204、反対85、棄権3。無効票は8票だった。可決には議員3分の2(200人)以上の賛成が必要だった。
結果を受け、ソウルの街頭で抗議活動を行っていた人々からは歓喜の声と、まだ信じられないといった表情が見られた。Kポップの曲を歌い、風船を飛ばす人もいた。採決に先立ち、数千人が国会議事堂の周辺に集まっていた。
今後は憲法裁判所が弾劾の妥当性を審査し180日以内に決定を下す。弾劾が妥当と判断されれば、大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われる。
聯合ニュースによると、大統領府が国会から弾劾訴追議決書を受け取り、尹氏の大統領としての権限は午後7時24分から停止された。憲法裁判所も国会から書類を受け取った。同裁判所は、審査日程を議論するための会議を16日に招集するという。
共同通信などによると、石破茂首相は14日、弾劾案可決前に訪問先の福島県で記者団に対し「重大な関心を持って注視している。日韓関係の重要性は何ら変わらない」と語っていた。
首相が職務代行
尹氏の職務停止により、憲法裁判所の判断が言い渡されるまでは、韓悳洙首相が暫定的に職務を代行する。
韓首相は14日夜、大統領代行としての初閣議後に国民向けの演説を行い、北朝鮮の挑発に備え、警戒態勢を強化するよう指示したと発言。非常戒厳宣布後の混乱にもかかわらず、金融・為替市場は徐々に落ち着きを取り戻しているが、経済関係省庁には経済状況を一層注視し、必要に応じて市場安定化の措置を「迅速かつ果敢に」推進するよう求めた。
韓氏はさらに、トランプ次期米政権発足に対応する準備も進めるよう促した。
一方、最大野党・共に民主党の李在明は大統領代行の韓氏を弾劾する計画は今のところないと述べた。
李氏は15日に開いた記者会見で、韓氏と協議したことを明らかにした上で、政治的にどちらかの側につくことは避け、「中立」を保つよう同氏に促したと述べた。
また政策や予算について議論するため、議会と政府が関与する超党派機関の創設を提案したとしている。
尹氏、出頭要請に応じず
聯合ニュースは、韓国の検察当局が尹大統領から事情聴取するため出頭を要請したが、尹氏は応じなかったと伝えた。
検察当局は11日、尹氏に対して15日午前10時に出頭するよう通知したが、同氏は姿を現さなかったという。
聯合ニュースによると、検察当局は改めて出頭を求める方針
市場安定化に注力
韓国銀行(中央銀行)は15日、尹大統領に対する弾劾訴追案が国会本会議で可決されたことを受けて、金融市場の安定に注力する考えを表明するとともに、主要な財政・経済措置を「途切れることなく実施する」ことが重要だと強調した。
「韓国銀行は政府と協力しながら金融および外国為替市場のボラティリティー拡大に対応し、かつ回避するために利用可能なあらゆる政策手段を活用する方針だ」との声明を発表した。
過去の歴代大統領の弾劾事例と比べて、今回の尹氏のケースでは「貿易環境における不確実性の高まりや世界的な競争激化など、国外からの課題が一段と大きい状況に直面している」と説明。
「これら国外と国内の要因が重なれば、その影響はさらに増幅される恐れがある」とし、経済改善のための介入主義的なアプローチが求められるとの認識を示した。
一方で、「政治プロセスの予測可能性は今後改善し、金融市場のボラティリティーは低下する見込みだ」と述べた。
崔相穆企画財政相も、議会と積極的に協力して経済を管理し、安定を確保すると表明。政府は年内に来年の政策の方向性を発表する予定だと述べた。これには戒厳令による混乱の影響を反映した最新の成長予測が含まれる可能性があるとしている。
弾劾に至る経緯

尹氏は3日夜、1987年の民主化後では初めての非常戒厳を宣布。国会本会議で4日未明、非常戒厳の解除を求める決議案が可決されたことから、わずか6時間で解除したが、金融・証券市場の動揺と国民の強い反発を招いた。7日に行われた1回目の弾劾訴追案の採決では、与党「国民の力」議員の大半が退席したため不成立となった。
元検事総長の尹氏は、2022年の大統領選で前例のない接戦の末、共に民主党の李在明氏を破って当選を果たした。ただ、4月に行われた総選挙で共に民主党が議席を大幅に増やしたことから、大統領が推進する政策の法案通過は困難になっていた。

尹氏は非常戒厳を宣布した際の演説で、野党の「立法独裁」を非難。「国民の自由と幸福を略奪している悪徳な従北反国家勢力を一挙に粛清」し、「未来世代に正しい国を引き継ぐ」と主張した。
12日にテレビ放映された国民向け談話でも、非常戒厳は「自由民主主義の憲政秩序の崩壊を防ぎ、国家機能を正常化」するためだったと正当化し、「弾劾されようが捜査されようが、私はそれに堂々と立ち向かう」と語っていた。
韓国ギャラップが13日に発表した週ごとの世論調査によると、尹氏の支持率は前週から5ポイント低い11%に落ち込み、大統領就任以来最低となった。回答者の4分の3が、大統領は弾劾されるべきだと答えた。
原題:South Korea Impeaches President Yoon, Who Vows to Never Give Up、S.Korea President Yoon Suspended From Power as of 7:24pm: Yonhap、Korea’s Acting Leader Urges Security Posture, Market Monitoring、Korea Prosecutors Say Yoon Failed to Show After Summons: Yonhap、BOK Vows to Stabilize Financial Markets Amid Political Chaos (1)、South Korea’s Lee Says No Plans to Impeach Acting Leader For Now(抜粋)
(共に民主党の李在明氏のコメントを追加して更新します)
--取材協力:Sangmi Cha、Heejin Kim、Min Jeong Lee、Heesu Lee、Whanwoong Choi、Shery Ahn、Takaaki Iwabu、鈴木克依、楽山麻理子、Katria Alampay、Youkyung Lee.記事に関するブルームバーグ・ニュース・スタッフへの問い合わせ先:Tokyo 渡辺漢太 kwatanabe22@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:上野英治郎 e.ueno@bloomberg.net記事に関する記者への問い合わせ先:Seoul Soo-Hyang Choi schoi437@bloomberg.net;Seoul Sam Kim skim609@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Jackson pjackson53@bloomberg.netJasmine Ng、塩原るみもっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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