(ブルームバーグ):吉川洋東京大学名誉教授は、日本の経済・物価情勢を踏まえると現在の政策金利の低さは異常だとし、日本銀行による早期の追加利上げが必要との見解を示した。物価上昇への対応が遅れている可能性もあるとみている。
吉川氏は9日のインタビューで、インフレ率や需給ギャップなどから政策金利を割り出すテイラー・ルールに基づけば、適切な水準は日米欧でそれほど大きくは違わないとし、日本の0.25%は異常に低いと分析。実体経済が米欧と比べて際立って弱い訳でもなく、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)が2年半以上も目標の2%を超えている中で、「日銀はできるだけ早めに利上げをした方がいい」と語った。
その上で、日銀の政策対応が「すでにビハインド・ザ・カーブに陥っているとも言えると思う」と指摘した。景気を冷やしも過熱もしない名目中立金利はおそらく1%前後との見方も示した。
日銀は経済・物価が見通しに沿って推移すれば利上げを続ける方針だ。植田和男総裁は先月28日の日本経済新聞とのインタビューで、データは想定通りで追加利上げの時期が近づいているとする一方、賃上げと米国経済の動向を見極めたいと述べた。市場で来年1月までの利上げ観測が強まる中、吉川氏は具体的なタイミングには言及しなかったものの、早期利上げの必要性を主張した。
吉川氏は、植田総裁と東京教育大学(現筑波大学)付属駒場高校、東大の同期だ。財政制度等審議会会長や経済財政諮問会議議員、政府税制調査会委員などを歴任。昨年5月から日銀参与を務めているが、内部情報などには接しておらず、金融政策に関する発言は自身の見解だとしている。
旧友が進める金融政策の正常化のスピードについては、「少し慎重に過ぎるのではないか」と苦言を呈した。2%を超える物価高が長期化している中で、多くの国民が困っているのが現状だとし、「インフレ抑制に最大のクスリ」である金融政策の機動性を発揮すべき状況にあるという。
日銀の金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS) 市場で、12月18、19日の金融政策決定会合における0.25%利上げの織り込みは、足元で約26%と先月末の約66%から低下。一方、1月会合は約45%に上昇している。
「のりしろ」確保
植田総裁の下で、日銀は今年3月に17年ぶりの利上げに踏み切った。それまでにデフレ脱却に向けてマイナス金利政策やイールドカーブコントロール(長短金利操作)などさまざまな非伝統的な金融政策を推し進めてきたが、2%の物価安定目標の実現には至らなかった。
吉川氏は将来的には経済が悪化して物価が下落し、「日銀が利下げしなければならない局面がいつか来る」と指摘。現在の0.25%のままで利下げ局面を迎えれば、すぐにゼロ%に戻ってしまうことを懸念する。マイナス金利政策の限界はすでに学習済みだとし、いわゆる「のりしろ」を確保するためにも金利を上げられる時に上げておくことが重要だと語った。
トランプ次期米大統領の就任を来年1月に控え、その具体的政策と世界経済への影響に関する不確実性の高まりが、日銀による追加利上げの障害と指摘されている。トランプ氏は先月、中国からの輸入品に10%の追加関税を課し、メキシコとカナダからの全ての製品に25%の関税を賦課すると表明。市場は今後の言動に身構えている。
吉川氏は、不確実性が高まった場合は利上げを見送るという慎重な判断も素直なリアクションとしつつ、まだ顕在化していないのであれば起きないうちに動くのも一つの考え方だと主張する。「金融政策は機動性が命だ」とし、利上げ後に新たな情報が出てくれば、それに基づいて次の対応を考えればよいとの見解を示した。
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