戒厳布告は「終わりの始まり」…朝鮮半島情勢、日韓関係に影響も

民主主義国家である韓国において、検察出身の尹大統領が内政混乱の局面打開に戒厳を用いる『禁じ手』に走ったことの批判は免れない一方、朝鮮半島情勢が混迷の度合いを増す動きがみられるなかで、韓国の政局混乱が長期化することは実質的に北朝鮮を利することになる。

さらに、一連の混乱が尹政権にとって『終わりの始まり』の引き金を引くきっかけとなることは間違いなく、弾劾決議に至る如何に拘らず最終的に退陣を余儀なくされる可能性は高まっていると判断できる。

そうなれば、その後に実施される次期大統領選では左派候補が当選する可能性が高いと見込まれるほか、総選挙も前倒しで実施されることにより野党勢力が伸長すれば、政権、国会ともに左派一色の様相を強める可能性も考えられる。そうなれば、尹政権の下で関係改善に向けた取り組みが着実に前進してきた日韓関係についても一転して見通しが立たなくなることが予想される。

なお、一連の混乱を受けて通貨ウォンの対ドル相場は大きく調整して一時2年強ぶりの安値を付けたものの、直後に中銀(韓国銀行)が必要に応じて『無制限』の流動性供給に動く方針を示すとともに、米ドル売りの為替介入に動いていることも重なり、落ち着きを取り戻している。

他方、主要株式指数(KOSPI)は米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて、朝鮮半島情勢を巡る見通しが立ちにくくなっていることに加え、その通商政策が韓国経済に与える影響を警戒して上値が抑えられる展開が続いている。

こうしたなか、仮に次期政権が左派一色の様相を強めれば、財閥企業などに対して厳しい姿勢が強まることも予想されるほか、外国人投資家を中心に韓国資産に対する投資意欲が低迷する可能性にも留意する必要がある。

中銀は先月末の定例会合で2会合連続の利下げに動いたものの、先行きの政策運営に不透明感が高まっていることは間違いないと言える。その意味でも、尹大統領の罪は極めて重いと捉えられる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)