記事のポイント
・10月の米JOLTS求人件数は反動増となったが、労働市場の正常化トレンドは変わらず
・今後、求人件数が減らなくなる可能性が高いが、それはインフレ再燃を意味しない

10月の米JOLTS求人件数は反動増となったが、労働市場の正常化トレンドは変わらず 求人件数(前月分:7,372千件、市場予想:7,519千件、結果:7,744千件)

米労働省が12月3日に公表した10月のJOLTS(Job Openings and Labor Turnover Survey)によると、求人件数は774.4万件となった。市場予想(Bloomberg調べ)を大幅に上回った。もっとも、おそらくハリケーンの影響で弱めの結果だった前月分は744.3万件から737.2万件に下方修正されており、均してみれば求人件数が緩やかに減少するトレンドは続いている。

図表1:JOLTS求人件数とIndeed求人件数 出所: 米労働省、Indeedより大和証券作成
図表2:米求人率(求人件数 ÷〈就業者数+求人件数〉) 出所: 米労働省より大和証券作成

求人率は4.6%と、9月の4.4%から上昇した。もっとも、この数字も前月の反動と考えられる。例えば3ヵ月移動平均は4.6%で、前月と同じ数字である。失業者1人当たりの求人件数は1.11件と、9月の1.08件から増加したがこの数字もトレンドが大きく反転して増加した訳ではない。自発的な離職率は2.1%と、9月の1.9%から上昇した。もっとも、離職率も緩やかな低下傾向が続いており、高賃金の職を求める動きが活発化している様子はない。総じて、賃金インフレが高まる兆しはなさそうである。

他方、解雇率は1.0%と9月の1.1%から低下した。この数字は23年4月から1.0-1.1%で安定しており、ほとんど変化がない。経済成長率が安定的に推移し、クレジット市場も堅調であることに鑑みると、企業がコストカットのために解雇を進める理由はないのだろう。米経済がリセッションに向かっている兆しもない。

筆者は米国の労働市場については、①求人件数の水準の高さから失業率が大きく上昇することはないとみているが、②求人件数の減少トレンドが続いていることから賃金上昇率は弱くなっていくと、予想している。米経済のテーマはリセッションではなく、ディスインフレの継続である、という立場である。ベバリッジ曲線(失業率と求人率の関係)や賃金フィリップス曲線(失業率と賃金上昇率の関係)は下方シフトが進んでおり、労働市場は順調に正常化が進んでいる。

図表3:米国のベバリッジ曲線 出所: 米労働省より大和証券作成
図表4:米国の賃金フィリップス曲線 出所: 米労働省より大和証券作成