ロシアでは、ウクライナ戦争が2年半以上に及ぶとともに先行きのみえない状況が続いている。こうしたなか、プーチン政権は西側諸国への対抗心をむき出しにするとともに、国内においては『内向き姿勢』を強めることを通じて戦争遂行を後押しする動きをみせている。
急速に進む人口減少
足下の実体経済を巡っては、増大する軍事費や軍需関連産業における生産拡大の動きが景気を押し上げるなど、一見すると堅調さを維持している様子がうかがえる。
その一方、戦時経済が長期化するなかでインフレ圧力が強まるなど幅広く国民生活に悪影響が出る動きもみられるほか、中長期的にみれば悪化の度合いが一段と増すことが懸念される兆しも出ている。
そうした状況は、戦争が長期化するなかで出生数が大きく低下するとともに、今年は四半世紀ぶりの水準となっているほか、ウクライナでの戦闘が激化するなかで死亡者数は上振れするなか、人口減少の動きが急速に進んでいることに現れている。
なお、旧ソ連が崩壊して以降のロシアにおいては、経済的な苦境も影響して人口が減少局面に突入する事態に直面するなど、如何にそうした問題に歯止めを掛けるかが問題となってきた。
よって、プーチン政権の下では、人口増加を目的に女性に少なくとも3人の子供を産むことを奨励するとともに、その実現に向けて育児手当をはじめとする経済的インセンティブを拡充させる動きをみせてきた。こうした動きも追い風に、2000年以降のロシアにおいては出生数が緩やかに拡大するなど、一連の政策支援が出生数を後押しする動きが確認された。
他方、近年のロシア国内においては、旧ソ連が崩壊して以降に欧米などの文化が流入した動きも追い風に、若年層を中心に価値観の多様化が進むとともに、そうした動きが家族観などにも影響を与えているとされる。
結果、上述のようにプーチン政権発足以降のロシアでは出生数が増加する動きがみられたものの、ここ数年は頭打ちに転じるとともに、減少ペースも加速しているほか、ウクライナ戦争がダメを押す動きに繋がっているとみられる。

なお、プーチン政権が2020年に実施した憲法改正においては、同性婚を事実上禁止するとともに、伝統的な家族の価値を重視するといった『伝統的価値観』に関する内容を盛り込むなど、ウクライナ戦争を前に内向き姿勢を強める動きがみられた。
さらに、2022年には上述した憲法規定を補強するように、LGBTなどの性的少数者や非伝統的な性的指向に関する情報をインターネットやメディア、映画、広告などを通じて拡散することを禁止する法律が施行されるなど、欧米と異なるロシアの伝統的価値観を重視することを目的に、対象となる人々に対して『抑圧』を強める動きをみせてきた。
こうした動きは、ここ数年の海外への移民者数が増えるなか、ウクライナ戦争を機にその数が上振れし、その後も高止まりしている一因になっているとみられ、ロシア国内における人口減少を後押ししている可能性がある。
