米銀シティグループは、富裕層向け事業を成長戦略の重要な一部と位置付ける準備を進めていたが、その裏では技術的な問題が次々と発生していた。

超富裕層の顧客は、競合他社に比べて見劣りする時代遅れのプラットフォームに不満を訴え、顧客担当バンカーたちも内心では同意していた。

ダラスを拠点とする2人の技術系幹部はこうした懸念を解消しようと、2年以上の歳月と10億ドル(約1500億円)以上の費用をかけてどのような成果を達成するつもりなのかをプレゼンテーションするために何度もニューヨークに飛んだ。

しかし残念ながら、ほとんど成果は得られなかった。

こうした行き詰まりの中、ジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)は外部から最上級幹部を採用するという異例の手段に打って出た。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のメリルリンチ・ウェルス・マネジメントを率いていたアンディ・ジーク氏だ。

フレーザー氏はジーク氏を新たに独立した富裕層向け部門の責任者とし、自身に直接報告させることにした。 着任から1年の間に、ジーク氏はマネジャーを解雇し、上級ポストを外部からの採用で埋め、顧客により多くの資金をシティに預けるよう迫り、テクノロジーアップグレードをあらためて推進した。

ジーク氏のチームは今年、業績が回復するまでの間の退職を食い止めるため、数十人の行員を対象に特別な引き留めボーナスを承認した。最近の業績は効果が出始めていることを示していると、同氏がインタビューで語った。

ジーク氏(57)はインタビューで、「これは成長戦略だ」と語った。自身が任命される前は「統一された富裕層向け戦略はなく、何を達成しようとしているのかについての経営理念も必ずしも存在していなかった」と振り返った。

シティの他の部門の上級幹部の1人はジーク氏を、必要なときに駆けつけた援軍にたとえ、前任者よりも洗練されたビジョンを持っていると示唆した。

米国で最大規模の富裕層向け事業を持つ銀行から業界の後進組への転身は異例の動きだった。

シティの富裕層向け事業は、2008年の金融危機後にリテール証券部門スミス・バーニーをモルガン・スタンレーに売却することで合意して以来、主要な他の銀行に後れをとっている。

 

 

ジーク氏がフレーザー氏と初めて会ったのは、2023年初頭で、両氏はシティの本社で朝食を共にした。それから1カ月もたたないうちにジーク氏はBofAに辞表を出した。

着任以来、同氏は現状を把握し、自身の新しいフランチャイズが世界一になる可能性があると公言している。

「私は現状をしっかりと見据え、このビジネスを成功させることができるという絶対的な自信を持ってこの役職に就いた」と語る同氏は「就任した日よりも、今の方がさらに楽観的だ」と述べた。

フレーザー氏は、かつて自身が経営していたプライベートバンクを含む3部門からなる富裕層向け事業に野心的な目標を設定した。2026年末までに収益性の指標である有形自己資本利益率を15-20%に引き上げるというものだ。7-9月(第3四半期)は8.5%だった。

 

ジーク氏は昨年10月の入社以来、香港、リヤド、パリ、フィレンツェなど世界各地を飛び回り、350件以上の顧客とのミーティングを実施。より迅速に戦略の練り直しや問題への対処を行うため、世界中の経営幹部26名で構成される諮問委員会を立ち上げた。

同氏の最優先課題の一つは、プライベートバンク顧客に、投資資産のより多く同社に移管してもらうよう説得することだ。

そのためには最上級のサービスを受ける資格がある富裕層でも、資産の大半を他の金融機関で管理している顧客に対して、待遇を格下げするなどより厳しい対応を取ることもあり得ると、事情に詳しい関係者が述べた。

同時に、口座開設にかかる期間を数週間から数日に短縮した。これらが奏功し、ジーク氏によれば「四半期としてここ数年で最高の投資流入を記録した」という。

同氏の突然の人事刷新は一部幹部の不興を買い、行員の離反を招いた。これを受けてシティは、法律事務所など専門サービスを提供する顧客を対象とするウェルス・アット・ワーク部門の行員数十人やプライベートバンクの一部行員に、来年まで残留することを条件に慰留ボーナスを支給したと、事情に詳しい関係者が語った。

残った人々の多くは、顧客重視というジーク氏の取り組みが成果を上げることを期待している。モルガン・スタンレーの元幹部でジーク氏に採用されたドーン・ノードバーグ氏は「ここ数年は富裕層部門の行員にとってあまり楽しくなかった」が、第3四半期の利益を計上した後、同僚たちはより楽観的になり「足取りには活気が戻ってきた」と話した。

原題:Citi Bonuses Buy Time for New Wealth Boss’s Revamp (Correct)(抜粋)

(原題を貼り替え、見出しと第7段落、第20段落の数百人を数十人に訂正します)

--取材協力:Katherine Doherty.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.