昨年のインド株式市場はアダニ問題に揺さぶられる事態に直面した。アダニ問題を巡っては、司法が事実上の「シロ判断」を下すも、規制当局は不透明な動きをみせたほか、その背後に利益相反が疑われるなど新たな問題が噴出してきた。
アダニ問題は個社の問題と捉えられる一方、足下のインド株は外部環境の変化なども影響して頭打ちの動きを強めるなど、市場を取り巻く状況は厳しさを増している。こうしたなか、米検察当局がアダニ・グループのアダニ会長などを贈賄や巨額詐欺の容疑で起訴するなど、新たな疑惑が噴出している。
アダニ氏はモディ首相と近く、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて米国での巨額投資計画を明らかにする動きをみせたが、今回の起訴で事業見直しは必至とみられる。また、地合いが悪化するなかでの新たな疑惑の噴出は、外国人投資家のインド株に対する見方を一段と悪化させる可能性もある。
“アダニ問題”に揺れるインド株式市場
昨年(2023年)のインド株式市場では、新興財閥のアダニ・グループを巡る疑惑(いわゆる『アダニ問題』)を受けて同社の株価が大きく下落するとともに、主要株価指数(ムンバイSENSEX)も大幅に調整する事態に発展した。これは、アダニ・グループが過去数十年に亘って子会社によるタックスヘイブン(租税回避地)を介した送金を通じて株価操縦や不正会計を行ってきた、と米国の投資調査会社(ヒンデンブルグ・リサーチ)が調査報告書で公表したことに端を発する。
直後に証券規制当局(SEBI:インド証券取引委員会)が独自に同社に対する実態調査を行うことを明らかにしたものの、株式市場の混乱を受けて、裁判所にSEBIによる調査と別に詳細調査を求める公益訴訟が提起された。
ただし、公益訴訟については最高裁が今年1月、一連の疑惑を対象とする特別調査の必要はないと判断するとともに、SEBIによる調査結果の早期公表を求めるなど、アダニ・グループが主張した内容のほぼ沿った形で事実上の『シロ判定』を下した。
その上で、最高裁はSEBIに対して、ヒンデンブルグ・リサーチが調査報告書の公表前に株式の空売りを行ったことに関連して、一連の取引によるインド国内の投資家が被った損失が法律に抵触するか否かの調査を求めるなど、アダニ側に寄った判断を下した。なお、最高裁はSEBIに対して3ヶ月以内にアダニ問題に関する調査結果の公表を求めるも、その公表は遅れる展開が続いている一方、ヒンデンブルグに対しては法律違反に該当する疑いがある旨の通知を行うなど、バランスを欠く判断をみせてきた。
こうしたなか、今年8月にはヒンデンブルグが新たな調査報告書を公表し、そのなかではSEBIのブチ委員長とアダニとの関係を理由に、アダニとSEBIの間に利益相反が生じるとの問題を指摘した。
このようにアダニに関連しては様々な疑惑が噴出する動きがみられるものの、一連の問題はあくまで個社の問題と捉えられる形で消化されてきたとみられる。しかし、足下のインド株を巡っては、9月末以降の中国株が急上昇するなど外部環境が変化していることに加え、金融市場において期待された中銀(インド準備銀行)による利下げ期待が後退していることも重なり、頭打ちの動きを強めるなど上昇してきた流れが一変する状況に見舞われている。
