(ブルームバーグ):米国の公衆衛生に関する最悪のシナリオが現実味を帯びている。トランプ次期大統領が厚生長官にロバート・ケネディ・ジュニア氏を起用すると発表したからだ。陰謀論を唱え、反科学を売り物にしてきたケネディ氏が、米食品医薬品局(FDA)や米疾病対策センター(CDC)、米国立衛生研究所(NIH)などの機関を監督することになる。
実際に長官に就任するには上院の承認が必要だが、ケネディ氏がこの段階にたどり着いたという事実だけで、公衆衛生には十分な打撃となり得る。
同氏が厚生長官には不適格であることを示す証左は枚挙にいとまがない。公衆衛生の専門知識や経験が欠如しているだけでなく、巨大な政府機関を管理するどころか、その運営に携わった経験もない。反ワクチンやエイズ否認主義で知られ、トランスジェンダー児童に関する攻撃的な理論を支持し、WiFiに発がんリスクがあると示唆し、学校での銃乱射事件は抗うつ剤のせいだと非難している。
ケネディ氏の意見が医療専門家の見解と一致している部分を並べ、厚生長官に適任だと主張する人もいるだろう。米国が小児肥満という深刻な問題を抱え、糖尿病などの慢性疾患が増えていることは同氏の指摘通りだ。予防を重視したり、健康で安全な食品を誰もが入手できるようにしたりする改革に反対する人はいないだろう。
しかし、問題に気づくことと、科学的証拠を精査して適切な解決策を導くことは全く違う。ケネディ氏の証拠分析能力に深刻な欠陥があることはこれまで繰り返し示されてきた。
その中でも特に顕著かつ有害なのは、同氏の代名詞にもなっている反ワクチンの立場だ。ケネディ氏は懸念の火消しのつもりか、NBCの最近の取材に対し、ワクチンを禁止するつもりはないと答えた。「もしワクチンが誰かのために効果があるなら、それを奪うつもりはない」とし、「人々は選択肢を持つべきであり、その選択肢は最良の情報に基づいていなければならない」と語ったのだ。
この「選択肢」という言葉こそ、同氏が厚生長官になるには根本的な問題があることを浮き彫りにしている。ワクチンのような予防ツールは公共財であり、誰もがこれに参加することに同意した場合にのみ機能する。集団免疫により、米国はポリオや麻疹といった恐ろしい病気の根絶を宣言することができた。
大多数の米国民がワクチン接種に参加していることは、衛生当局の多大な努力の賜物(たまもの)だ。それには、ワクチン開発を支える基礎研究の実施と資金提供、安全性と有効性の評価、地域社会との連携による予防接種などが含まれる。
それらの管轄をケネディ氏に任せることは、たとえ特定のワクチンが禁止されないとしても、公衆衛生に直接的な打撃を与える機会を多く与えることになる。
ワクチン接種の重要性に関するメッセージの微妙な変化がもたらす結末を過小評価すべきではない。すでにワクチンに反対している人々の間で不信感を強め、ワクチンの価値に確信が持てずにいる人を反ワクチンに傾かせる可能性もある。
CDCのマンディ・コーエン所長は先にミルケン研究所での講演で「ワクチンが有効であることを思い出すために後戻りしなければならない状況は避けたい」と語り、危機感をあらわにした。後戻りとは、ワクチン接種率が低下し、根絶されていた病気が再び脅威をもたらすことを意味する。また一部の子どもにとっては深刻な合併症を意味する。それが命取りになる場合もあるだろう。
CDCもFDAもNIHも完璧ではない。そもそも完璧な政府機関など存在しないのだ。しかし、公衆衛生の原則を損なう陰謀論者による「改革」は、欠陥を修正するのとは真逆の動きだ。それが国民の健康に及ぼす後遺症は何世代にもわたって残る恐れがある。
(リサ・ジャービス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:RFK Jr.’s Junk Science Will Put Americans at Risk: Lisa Jarvis(抜粋)
コラムニストへの問い合わせ先:Chicago Lisa Jarvis ljarvis7@bloomberg.netエディターへの問い合わせ先:Jhodie-Ann Williams jwilliam1011@bloomberg.net翻訳に関する翻訳者への問い合わせ先:New York 宮井伸明 nmiyai1@bloomberg.netもっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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