(ブルームバーグ):動画配信サービス、ネットフリックス史上で最も人気のある番組となった「イカゲーム」が帰ってくる。生みの親であるファン・ドンヒョク氏(53)にとって、このダークで衝撃的なドラマの脚本執筆と監督はあまりにも過酷で、シーズン1の制作時には歯を7、8本失ったという。
韓国ソウル郊外の撮影スタジオでインタビューに応じたファン氏は、「とても疲れていたりストレスがたまったりすると、いつも歯茎に問題が出てしまう」と話した。
全9話のシーズン1が終了した後、ファン氏には当初、続編の意向はなかった。だが最終的には、世界的ヒットの再来を望むネットフリックス側の熱意が、歯に対する懸念を上回り、ファン氏は新たなエピソードの執筆に取り掛かった。

イカゲームのシーズン2は12月26日、華々しく配信開始を迎える。前日の25日には、ネットフリックスが初めて、米プロフットボールNFLの試合を配信する。
ネットフリックスの最高コンテンツ責任者ベラ・バジャリア氏はハロウィーンの仮装やビデオゲームなどでイカゲームが取り入れられたことに触れ、「視聴者はシーズン1を愛し、もっと欲しがった。愛される番組は、人々が体験し、つながりを持ちたいと感じるものだ」と指摘する。
ネットフリックスの計算によると、21年9月の配信直後、イカゲームのシーズン1は同社に9億ドル(約1400億円)相当の価値をもたらした。
原体験
イカゲームの反資本主義的な寓話(ぐうわ)は、ファン氏自身の絶望から生まれた。2008年の金融危機で、韓国映画業界は荒廃し、脚本家のファン氏も運に見放されていた。わずかなクレジットと銀行口座残高10ドルに追い込まれたファン氏は、借金まみれで一文無しの韓国人が、想像を絶する大金を求めて死闘を繰り広げるサバイバルゲームの物語を書いたのだ。
完成したオリジナルの脚本は、韓国のバイヤーにとっては、内容が複雑で暴力的な上、制作費が高額すぎた。この作品が売れずにくすぶっている間、ファン氏は別の3本の韓国映画の監督を務めた。
そして、ついに新たなバイヤーが見つかった。
16年に韓国でサービスを開始したネットフリックスは、大手放送局や映画スタジオが見落としていた番組を、韓国で探し求めていた。そこに登場したのがファン氏だ。
韓国映画やテレビ番組は、ネットフリックスが数十億ドルを通じて事業拡大を図ってきたアジア地域での人気が高い。同社のチームは当初から、イカゲームが韓国でヒットし、アジア全域で新たな視聴者を獲得できる可能性があると確信した。
21年秋、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で世界が依然として強いストレスを抱えていた頃、イカゲームはデビューした。不穏な状況下で生き残るため、絶望した人々がどこまでやるかを描いた作品だ。ほぼ一夜にして、この不気味なドラマは世界的な現象となり、ネットフリックスの全大陸で最も視聴されたタイトルに躍り出た。
批評家からの評価も高く、米テレビ界最高の栄誉とされるエミー賞のドラマ部門にノミネートされた初の外国語番組となった。
大展開
22年5月、ファン氏は続編の執筆を始め、最終的に2シーズン分の脚本を練り上げた。23年夏には、ソウル郊外のスタジオで撮影が始まった。
一方、ネットフリックスは関連事業のさらなる展開を模索した。イカゲームを題材とし、同様のセットを使用するリアリティー番組を発注。また、このドラマを基にした多人数参加型ビデオゲームの開発も始めた。
さらにネットフリックスは、映画「ソーシャル・ネットワーク」や「ファイト・クラブ」などを手がけたデビッド・フィンチャー監督と、英語版の制作の可能性について協議した。
イカゲームの最終シリーズとなるシーズン3は、2025年に配信される。ファン氏は「私が手がける最後のシリーズになるだろう。もう二度とやらない。人間的にも、身体的にも、精神的にも、限界を超えて自分を追い込んだ」と述べた。終了後は、長い休暇を取るつもりだという。
原題:‘Squid Game’ Returns in Test of Netflix Global Marketing Muscle(抜粋)
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