トランプ次期政権が掲げている関税政策は、大きなリスクを抱えている。その危険性がまだ十分には理解されていない気がする。もしも、日本が米国輸出のすべてに10%の関税をかけられると何が起こるのか。日本は何の対抗措置も採らないのか。しかし、対抗措置を採れば、日本の消費者がダメージを負う。

日本は対抗措置を採るのか?

トランプ次期大統領の公約の中で、最も危険なものは関税率の引き上げである。全輸入品に対して10~20%の追加関税をかけるとする。特に、中国には全輸入品に60%の関税をかけると言及している。さらに、個別ではメキシコからの輸入自動車にも100~200%の関税をかけるとする。中国からの迂回生産の自動車・自動車部品も同様に規制するという方針なのだ。

こうした関税率の引き上げは、極めて好ましくない結果を招きそうだ。おそらく、中国はトランプ氏の関税率引き上げに対して、対抗措置として米国からの全輸入品に同様の関税率をかけるだろう。これは、報復措置でもある。

もしも、日本が10~20%の関税率引き上げを行われれば、同様の報復措置を採るのか。仮に、米輸入品に10%の関税率をかければ、それは日本の消費者にとって10%の値上げを意味する。米国から日本が輸入している財の金額が11.5兆円(2023年)である。これに10%の関税がかかるとすれば、単純には1.15兆円の負担増が消費者に間接的にのしかかる。輸入財の内訳は、化学製品が2.2兆円、鉱物性燃料が1.8兆円、食料品が1.7兆円、一般機械が1.6兆円などになっている。米国は、中国に次ぐ輸入相手国である。

そうした輸入相手国に対して、対等な報復を行うことは、日本の消費者への増税と同じことをする結果を招く。米国の輸入品は関税がかかった分だけ割高になって、そのコスト増は日本の消費者に価格転嫁される。ここの判断は難しい選択だ。

では、日本は米国からの輸入品に報復関税をしなければよいではないかという議論にきっとなるだろう。しかし、何の対抗措置もなければ、トランプ氏はさらに関税率を引き上げるなどの追加措置を採ってくる可能性もある。やられたい放題になるリスクがある。何らかの対応策を講じて、トランプ氏に痛みを感じさせる牽制効果はあった方がよいと考える人も多いだろう。

ただし、その代償は大きい。日本の消費者に対する値上げということになる。石破政権には、トランプ関税への報復措置を行うかどうかは重大なジレンマをはらんでいると考えられる。