10月の衆議院選挙で自民、公明の連立与党が大敗し、野党の影響力が強まったことを受け、株式投資家の間では小売企業や電力会社の株価上昇に対する期待が高まっている。

石破茂首相が小規模政党の協力を取り付けるため労働者の可処分所得増へ減税を決めるとの期待に加え、与党と国会運営で協力するとみられる一部野党がともに原子力発電所の再稼働に積極的なことが背景にある。

石破首相

一方、ほかのセクターの見通しは明確ではない。

防衛関連株は、防衛費の増額をどう賄うのかを巡って国会が分裂するリスクに直面している。また投資家は、野党との協議が複雑になり、政府の細分化と政策決定の遅れが生じればコーポレートガバナンス(企業統治)改革や米国のトランプ新政権との貿易交渉といった重要な動きが進まなくなる恐れもあるとみている。

アセットマネジメントOneの飯塚祐子エコノミストは、少数与党政権で国会が不安定になる懸念があるとした上で、野党の影響力が強くなることは、与野党が補完し合うことで「国民にも企業にもポジティブだ」と述べた。

衆院選で与党は2009年以来の過半数割れとなった。11日の特別国会で石破氏は決選投票で再び首相に指名されたが、今後、政策を進めるには同様の政策を掲げる野党、特に低所得者向けの減税を公約に掲げて議席を4倍に増やした国民民主党の協力を得ることが不可欠となる。

石破氏は11日夜の記者会見で、30年度までに人工知能(AI)と半導体分野に10兆円以上の公的支援を行う方針を明らかにした。

12日の東京株式市場ではルネサスエレクトロニクス株が一時11%急騰した。石破氏の会見に加え、競合する米国のモノリシック・パワー・システムズから市場シェアを獲得するのではないかとの思惑が広がった。東京エレクトロンやアドバンテストなど他の半導体銘柄は米国のハイテク株安の影響で売りが優勢だが、公的支援が実現すれば長期的には上昇する可能性がある。

勝者と敗者

国民民主党が公約に掲げた、所得税が発生する「年収の壁」を103万円から178万円に引き上げるという政策が実現すれば、小売企業が恩恵を受ける展開が予想される。この政策は、若年層やパートタイム労働者の手取り収入を増やすことになる。

国民民主の玉木雄一郎代表が10月31日、103万円の引き上げができなければ予算にも法案にも協力できないと自身のX(旧ツイッター)に投稿すると、同日の東京株式市場で良品計画やマツキヨココカラ&カンパニー、しまむらなどの消費関連銘柄の株価は1.2%以上値上がりした。その日の東証株価指数(TOPIX)は0.3%下落した。

自民党は非課税所得上限の引き上げについて現実的な議論には応じる姿勢を示しているが、税収が大幅に減ることへの懸念も表明している。アイザワ証券の河西幸弘シニアストラテジストは「『年収の壁』引き上げに向けて実際に道が開ければ、百貨店やスーパーなどの銘柄は上昇余地が生まれる」と話す。

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、一部野党の原発推進姿勢はエネルギー関連企業の株価にも追い風だとみている。

「国民民主党は原発に対して否定的ではないので、今まで進めてきた原発再稼働の流れが止まりそうだという印象を持たなくて良い」と同氏は話す。自民党の有力な連携候補である日本維新の会も原発の利用を支持している。

東証業種別の電気・ガス業指数は、衆院選明けの1週間に4.4%上昇し、TOPIXの1%高をアウトパフォームした。10月29日には11年の東日本大震災で被災し13年超止まっていた東北電力の女川原子力発電所2号機が再稼働し、同セクターはさらに上昇した。

自民党を中心とする政府は、11年の福島第一原子力発電所の事故以来、ほぼ休眠状態にある原子力産業の復活を目指している。自民党の最大のライバルである立憲民主党はこれに反対しているが、T&Dの浪岡氏は国民民主やその他の政党の支持があれば、与党はこの政策を推進できると予想。「電力関連株は上昇しそうだ」と言う。

防衛予算の増額計画が政党間の争点となることが予想されるため、防衛関連株の見通しは比較的不透明だ。自民党は選挙で敗北する前、財源の一部を法人税と所得税、たばこ税の引き上げで賄うとしていたが、国民民主党は防衛強化に賛成しつつも増税には反対姿勢を明確にしている。

政党間の対立は政策決定のペースを遅らせる要因となる。ロンドンのポーラー・キャピタルで日本バリュー・ファンドの共同運用を担当しているクリス・スミス氏は、コーポレートガバナンスなどに関する今後の政府決定が遅れる可能性があると述べた。

「企業改革は日本株の方向性という観点で最も重要だ」とスミス氏は指摘。「各党とも変化の必要性は認識しているが、今後の変化のペースは今権力の座にいる政党にかかっている」との見方を示した。

(第7、8段落を追加して記事を更新しました)

--取材協力:我妻綾.

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