(ブルームバーグ):トランプ次期米大統領の政権移行チームは、最初の当選時よりはるかに組織立った形で、2期目の政権具体化に着手した。その過程で、特に物議を醸すトピックが引き続き関心を集めている。いわゆる「プロジェクト2025」だ。
プロジェクト2025とは、保守派シンクタンクが主導した米政府再編を目指す大掛かりなプランであり、トランプ氏(ないし将来の共和党政権)がアジェンダ(政策課題)を迅速に推進する際のリソースを意図していた。
トランプ氏が選挙戦で示した多くの立場に共鳴するプランの策定には、同氏に近い多数の人々が深く関与した。民主党は選挙戦を通じて、トランプ氏とプロジェクト2025を結び付けようとしたが、この構想から同氏は距離を置き、繰り返し批判さえした。
共和党の政治家やアドバイザー、政策専門家らは、トランプ氏が大統領に返り咲く世界で高い評価を得ようとしているが、プロジェクト2025への関与は、マイナスになったようにさえ思われる。
プロジェクト2025とは何か
ヘリテージ財団が主導し、100を上回る保守系団体が参加したプロジェクト2025は、17年にトランプ氏が1期目の政権を発足させるに当たり、準備が十分でなかったと共和党内で広く懸念されたことから生まれた。1期目の初期に特徴的だった内輪もめや法的問題を排除し、ホワイトハウスへの復帰を円滑にする狙いもあった。
もっと大まかに言えば、「急進左派の支配から国を救う」という目標を掲げている。ヘリテージ財団のケビン・ロバーツ会長は今年7月、米国が「第二の独立革命の過程にある」と指摘。「左派がそれを許せば流血を見ないで済む」だろうと述べていた。
プロジェクト2025は、共和党の政権スタッフとして働くことに関心のある個人の履歴書を集め、研修を提供し、将来のトランプ政権発足に備え最初の180日間の「行動戦略」も策定していた。23年4月には政策提言の詳細を盛り込んだ900ページに及ぶ政策指針「リーダーシップのためのマンデート」を公開。各セクションには執筆者の署名があるが、そのアイデアを関係者全員が必ずしも共有しているわけではないという。

プロジェクト2025が求める政策とは
政策指針に盛り込まれた主な提言は次の通り。
- 連邦政府職員の解雇を容易にすることなどにより、いわゆる「行政国家」を解体する。大統領の大望実現に専心する政治任用者に属すべき政策決定に関し、連邦省庁・機関のキャリア官僚が過大な影響力を持っているという主張だ
- 軍の国境配備、執行簡素化のための出入国管理機関の統合、入国審査官増員および収容施設拡充の予算確保に向けた議会との協力、本国送還対象者の受け入れを拒否する国への制裁発動を通じて、違法な越境取り締まりを強化し、不法移民の国外退去を促す
- 連邦レベルの個人所得税制度(現行は10%から37%の7段階の税率設定)を簡素化し、最高所得者は税率30%、それ以外は15%とする。大部分の税控除は廃止する
- 法人税率の21%から18%への引き下げ
- 教育省の廃止
- 米国の石油・天然ガス開発を奨励する規制緩和や、電気自動車(EV)・再生可能エネルギー生産に税控除などを提供するインフレ抑制法(IRA)の撤廃努力、気候変動の不安をあおる業界の推進役とされる海洋大気局(NOAA)縮小により、化石燃料の生産を優先し、環境への懸念に重点を置くことをやめる
- 行政機関の職場およびその政策からダイバーシティー(多様性)とエクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂)への配慮を排除し、トランスジェンダーの軍への参加を禁止する
- 国防支出を増やし、核兵器を拡充する
- 制限的な全米中絶法の成立に向け議会と協力し、経口中絶薬ミフェプリストンなどの承認取り消しを含め、妊娠と中絶の規制を強化する

トランプ氏のアジェンダとの違いは何か
第47代大統領になるトランプ氏陣営が掲げる政策課題「アジェンダ47」も、共和党の24年政策綱領も、プロジェクト2025が策定したほど詳細な提言を示していない。しかしトランプ氏は選挙遊説で、「ディープステート(闇の国家)」と呼ぶ官僚機構の破壊や国境警備の強化、不法移民の一斉国外退去、教育省の廃止、米国の化石燃料産業規制と環境規制の緩和、軍の増強、トランスジェンダー保護を含むダイバーシティー政策見直しを訴えた。
トランプ氏は法人税率を最低15%まで引き下げたい意向も明らかにした。17年に成立した「トランプ減税」では時限措置として、個人所得税の7段階の税率区分を維持しつつ、そのほとんどで税率を引き下げたが、同氏はその延長も提唱した。
中絶問題についてはさまざまな立場を取ってきたトランプ氏だが、最近では連邦法の制定に反対し、中絶に関する法律は今後も各州が定めるべきだと主張。経口中絶薬ミフェプリストンへのアクセスを妨げるつもりもないと発言した。
原題:What Will Trump Do? Why Project 2025 Invites Intrigue: QuickTake(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.