米大手銀行の内部では先週、バイデン政権時代の規制当局という「共通の敵」から解放されるとの見通しを念頭に、慎重な楽観論から歓喜までさまざまなムードが漂っていた。

国際的な資本規制「バーゼル3」の最終化として知られる自己資本規制強化案に代表される近年の厳しい規制強化は、それに抵抗しようと、かつてないほど業界を結束させた。大手銀行とその業界団体はロビー活動に多額の資金を注ぎ込み、連邦準備制度理事会(FRB)が一層緩やかな案を公表する方針を示したことで譲歩を勝ち取った。

この提案はまだ公表されておらず、規制当局は誰が米大統領選で勝利しても提案実施に向けて作業を進めるとしてきたが、業界幹部は現在、この案がほぼ白紙になったとみている。

「万が一、新提案で合意できたとしても、新政権が発足する前にそれを発表し、実行に移す時間はない」と、元FRB理事でその後ウェルズ・ファーゴの取締役会会長を務めたベッツィ・デューク氏は語った。

トランプ次期政権は理論上、通貨監督庁(OCC)長官と消費者金融保護局(CFPB)局長を政権発足初日に、少なくとも暫定的に交代させることができる。これら二つの当局のトップは、新規制を提案・制定するプロセスで極めて重要な役割を担っており、銀行は既にこの機を捉えて、業界に一段と友好的と見なされる人事を提唱し始めている。

昨年の提案をまとめたFRBとOCC、連邦預金保険公社(FDIC)の担当者はコメントを控えた。

FRB当局者は過去数カ月にわたり、選挙結果に関係なく、新ルールを導入するとのコミットメントを維持してきた。パウエルFRB議長は7月の議会公聴会で、「重要なのはそれを正しく行うことであり、迅速に行うことではない」と証言した。

バーFRB副議長(銀行監督担当)も9月、「連邦準備制度は独立した機関だ。われわれのいかなる作業でも選挙に注意を払っていない」と話していた。

政権交代

業界幹部の1人が匿名を条件に明らかにしたところによると、ドナルド・トランプ氏の勝利から数時間のうちに、政権交代に伴う人事についてのチャットでメッセージのやり取りが活気づいた。また別の幹部は、現状と比べたトランプ次期政権の規制の見通しを「昼と夜のようにまるで正反対」と表現した。

銀行株は6日に急伸し、米金融機関24銘柄で構成されるKBW銀行株指数は10%強の大幅上昇となった。今年に入ってから次々と高値を更新しているJPモルガン・チェースの株価は、さらに高値を記録。ウェルズ・ファーゴの株価は、FRBが資産上限を設ける前につけた2018年の高値をついに突破し、初めて70ドルを上回って引けた。

大手銀行の経営幹部の1人は、執行措置や公的キャンペーンに左右されることなく、明確なルールに重点を置いた一段と予測可能な規制環境を期待していると述べた。ただ、規制当局が多様性・包摂性(D&I)の取り組みや、環境・社会・企業統治(ESG)の指標に関連した投資を阻害するような公的な政策方針を押し進める可能性があることに注意を促した。

銀行にとっての明らかな勝利は、大統領選結果に関連するものだけではない。ウォール街と長年敵対してきた上院銀行委員長のブラウン議員(民主、オハイオ州)が落選し、共和党のバーニー・モレノ氏が当選した。この結果もあって同党は上院で過半数を獲得し、下院でも過半数を維持する勢いだ。

楽勝にあらず

それでも、ウォール街では、完全な楽勝を期待しているわけではない。全体的にソフトなタッチが見込まれている一方で、共和党議員の中には資本規制の強化に賛成する声もある。最新の計画では、大手銀行8行に対して9%の資本引き上げを要求しており、これは規制当局が当初提示した案の約半分だ。

この計画が破棄されるか、再び大幅に縮小されることになれば、米国外での問題が複雑化する可能性がある。欧州連合(EU)は既に、域内の銀行が不利にならないよう、銀行の取引活動に影響する資本規制の重要な部分を1年延期している。英国は9月、全規制を26年まで延期すると発表した。

トランプ氏の当選によって、EUと英国は規制緩和や規制の再延期を迫られる可能性があるとブルームバーグは先に報じた。このほかに、トランプ次期政権と共和党全体におけるポピュリストの影響力の問題もある。

ディール押し上げ

このような疑問の声にもかかわらず、選挙結果が判明すると、ウォール街には明るい雰囲気が広がった。バイデン政権による企業の合併・買収(M&A)への監視の目は、待望のディールメーキングの復活や、銀行がM&Aをアレンジすることで得られる魅力的な手数料に水を差してきた経緯がある。

JPモルガンのジェレミー・バーナム最高財務責任者(CFO)は、過去7四半期のいずれにおいても、規制環境がこの事業の妨げになっていると指摘していた。銀行関係者は現在、ディールメーキングと新規株式公開(IPO)の回復が間近に迫っていると予想している。地方銀行にとっては、銀行同士の提携も再び検討対象になる。

トレーディングデスクもまた、政策転換を巡る顧客の動きに活気を取り戻す可能性がある。トランプ氏が掲げる関税政策が現実になれば、市場の変動につながると考えられる。トランプ氏は政権1期目当時、ソーシャルメディアへの投稿一つで市場を動かすこともあった。

シティグループのフレイザー最高経営責任者(CEO)は8日のCNBCのインタビューで、「われわれはこれが成長促進につながり、有益なものになると広く期待している」とし、投資銀行を取り巻く環境に関しては「ゲームオン」だと話した。

原題:Banks Eye Trump Regulatory Reprieve, Starting With Capital Rules(抜粋)

--取材協力:Katherine Doherty、Katanga Johnson、Laura Noonan.

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