米大統領・議会選のシナリオ別分析
そうした中で、米大統領・議会選の結果が市場環境を動かす要素として重要であることは言うまでもない。ハリス氏の場合、大統領選で勝利しても民主党の改選議員が多い上院で共和党に多数を奪還される可能性が高く、ねじれ議会の下で予算や税制改革法案を成立させるのは困難だろう。また、バイデン政権の路線を継承するとみられるため政策の大きな変化はなさそうだ。
トランプ氏が再選され、上下両院で共和党が多数になった場合、トランプ政権1期目に導入された時限減税の恒久化や製造業支援などの支出増加など財政面の政策に先行して取り組むとみられる。他ケースと比較し、米金利高、株高、ドル高となる可能性が高まろう。
トランプ大統領の下、ねじれ議会(上院:共和党、下院:民主党)になる場合、トランプ氏が主張する関税引き上げ(対中60~100%、全輸入10%等)、移民制限など大統領令で実施できる(財政以外の)政策に注力しよう。関税引き上げなどは物価上昇圧力と景気抑制効果の両面があり、また他国の報復の可能性もある。金融市場は不安定になりやすいだろう。
もう一つのキーファクター:FRBの利下げ余地
トランプ氏が再選された場合のリスク評価の参考として、前回のトランプ政権時を振り返ると、最初の1年半程度は減税・規制緩和などによる経済成長期待でグローバルに株価は上昇した(①)。2018年11月の中間選挙前後から、トランプ政権が対中関税の引き上げなど保護主義的な政策を強調、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げと相まって、米国を含め先進国の株価は大幅に下落した(②)。2019年に入ると株式などリスク性資産の市場は持ち直した(③)。トランプ大統領は対中関税問題で強硬姿勢をとりつつも、交渉では現実的な対応をとったこともあるが、インフレ安定・景気下振れリスクを意識してFRBが利下げに転換する姿勢を示し始めたことも株価の支えとなったみられる。
2025年にかけ選挙後の米国の経済政策が金融市場のストレスになる局面はあり得よう。しかし、生産性上昇のもとでインフレの再加速が避けられれば、FRBの利下げ余地は大きいとみる。株式などリスク性資産について、大幅な下落が一方的に続くリスクは限定的だろう。
(※情報提供、記事執筆:三井住友DSアセットマネジメント チーフマクロストラテジスト 吉川 雅幸)