ウォール街、Ｍ＆Ａ再起動へ－トランプ氏政権復帰が大型案件に追い風

（ブルームバーグ）：ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに返り咲くことで、大型のＭ＆Ａ（企業の合併・買収）がさらに活発化するとの見方が強まっている。

トランプ前大統領は５日の米大統領選で民主党候補のハリス副大統領を破り圧勝。これにより、いわゆる「トランプトレード」が活気づき、Ｓ＆Ｐ500種株価指数とドルは上昇した。

バンカーや法律家は、トランプ氏の企業寄りの姿勢がＭ＆Ａに追い風となり、回復の兆しを見せ始めたディールメーキングにさらに弾みがつくとみている。

エバコアのラルフ・シュロースタイン名誉会長はブルームバーグテレビジョンとの６日のインタビューで、Ｍ＆Ａには「かなり大きな潜在需要」があり、多くの企業が「夢のような取引を検討し始めている」と語った。取引は来年さらに勢いを増すとの見通しも示した。

トゥルーイスト・セキュリティーズのＭ＆Ａ責任者ラウル・グティエレス氏は、「トランプ氏が公約に掲げた法人税およびキャピタルゲイン税の減税は、すでに回復傾向にあるＭ＆Ａサイクルをさらに加速させる」と指摘。

「より大型の取引が前進するだろう。反トラスト（独占禁止）を巡る現政権の姿勢を理由に保留されていた案件もあり、政権交代後は承認を目指して当局の審査を受ける意欲がさらに高まるだろう」と話した。

バイデン政権は、企業の独占を進め消費者の選択肢を狭める可能性があると見なされる取引を厳しく取り締まっている。

連邦取引委員会（ＦＴＣ）のカーン委員長と司法省反トラスト局のカンター局長が新たなアプローチを試みていることもあり、Ｍ＆Ａ案件が当局によってどのように受け止められるか予測することは困難だ。

規制当局の監視の対象となった大型案件には、2022年に発表されたスーパーマーケットチェーン大手クローガーによる同業アルバートソンズの約250億ドル（約３兆9000億円）での買収やキャピタル・ワン・ファイナンシャルによるクレジットカード会社ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズの350億ドルでの買収計画、シノプシスによるソフトウエア開発企業アンシスの約340億ドルでの買収合意などがある。

アルバートソンズとアンシス、ディスカバーの株価は６日に上昇した。

裁定取引

ディールメーカーたちは、トランプ次期政権下の連邦政府機関の新任者が、Ｍ＆Ａに対してより友好的なアプローチを取ることを期待している。

「反トラスト法に関しては過去４年間で顕著な変化があった。それらの政策の多くについてかなり意味のある後退が見られると思う」と、グッゲンハイム・セキュリティーズのＭ＆Ａ責任者エリック・ルトコスケ氏は述べ、「司法省とＦＴＣの組織に変化が起こるまでの期間は、当局が取引に異議を唱える意欲が減退するだろう」と予想した。

法律事務所スキャデン・アープス・スレート・ミーガー・アンド・フロムのＭ＆Ａチームパートナー、アン・ベス・ステビンズ氏は「反トラスト当局の管轄範囲が拡大するにつれ、規制が徐々に強化されてきた」が、「今後は規制が後退し、より予測可能になり、取引の速やかな完了につながる」と見込む。

Ｍ＆Ａの確実性が高まる見通しは、取引に関するアドバイスを提供する銀行や弁護士にとってだけでなく、案件が成立するかどうかを予想する合併裁定取引のトレーダーにとっても朗報だ。

バイデン政権下で規制が強化されたこともあり、アービトラージ取引の戦略はこのところ苦戦。ＦＴＣが最近、高級ファッションブランド運営のタペストリーによる同業のカプリ・ホールディングスの85億ドルでの買収を凍結する決定を下したことで、注目度の高い裁定取引が打撃を受けた。

「これは良い傾向であり、カーンＦＴＣ委員長が実施したバイデン政権の行き過ぎた政策が一部でも覆されることを期待している」と、ウェストチェスター・キャピタル・マネジメントのロイ・ベーレン共同最高投資責任者（ＣＩＯ）は述べ、「不確実性の重しが取り除かれたことと、より現実的で歓迎すべき規制体制が整ったことの両面から、活動の大幅な増加が見込まれる」と期待を示した。