金融市場が混乱した8月上旬、損失が膨らんだヘッジファンド業界では、一部のトレーダーがそろそろ潮時だと上司に告げられる恐怖の瞬間を迎えていた。

マルチ戦略ヘッジファンド運営会社ミレニアム・マネジメントとバリアズニー・アセット・マネジメント、ブルークレスト・キャピタル・マネジメントでは、少なくとも6人のトレーダーがポジションの清算、あるいはチーム閉鎖に追い込まれた。内情に詳しい複数の関係者が明らかにした。円キャリートレードの急速な巻き戻しと米経済の先行きを巡る不安で、世界の金融市場が大きく動揺したことが背景にある。

ブルークレストで日本国債取引を専門とするシニアポートフォリオマネジャー、村山知我氏は損失を出した後に業界で「ポッド」と呼ばれる運用チームを閉鎖された。村山氏とチームメンバーの1人はその後、職を離れた。

ミレニアムで資本財・エネルギー株のトレーディングを担当していたライアン・フィッツギボン氏は損失を出した後に退職。指数リバランシング戦略を担当していたアジアの同僚、シャオ・イン、ザカリー・コロネス両氏も同じく同社を去った。バリアズニーの香港在勤トレーダー、マーク・コックス氏も退社した。情報は部外秘だとして匿名を条件に関係者が明らかにした。

今回の動きは、マルチ戦略ヘッジファンド運営会社によくある非情なリスク管理の一環だ。多額の損失から身を守り、定評ある安定したリターンを継続的に確保するためには必要だとの判断がある。ポッドに編成されたトレーダーらは、通常は5%の損失で資本の一部が引き揚げられ、7%の損失で解雇されることが多い。

アーレン・キャピタル・マネジメントのマネジングパートナー、ブルーノ・シュネラー氏は「8月の動向は、とりわけ市場のボラティリティーが高まっている局面で、厳格なリスク制限がいかにトレーダーに影響を及ぼすかを浮き彫りにした」と指摘。「このような動きはマルチマネジャー型ファンドのプラットフォーム全体でポジション清算の連鎖を招き、市場のストレスを増幅する可能性がある」と述べた。

こうした頻繁な淘汰(とうた)と徹底したリスク管理がマルチ戦略ヘッジファンドを業界最大のドル箱に押し上げてきた。ピボタルパスによると、マルチ戦略ファンドは1998年以降、年率9%のリターンをたたき出している。リターンはS&P500種株価指数を上回り、変動もはるかに少ない。

8月初旬の大混乱にもかかわらず、金融市場はほぼ持ち直しており、これらのファンドの大半はプラスで今月を終える見通しだ。

ミレニアムとバリアズニー、ブルークレストの担当者はいずれもコメントを控えた。村山氏とコックス氏、フィッツギボン氏にコメントを求めたが返信はない。

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原題:BlueCrest, Millennium Pods Faced Quick Closure After Turmoil(抜粋)

--取材協力:Lisa Du.

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