日本株は7月に史上最高値を更新するなど、順風満帆の相場の中で今年に入り信用取引や少額投資非課税制度(NISA)を通じて持ち高を増やしてきた個人投資家。しかし、突如訪れた暴風雨のおかげでわずか3営業日の間に状況は一変した。

証券会社前の株価ボード

5日の日本株市場で日経平均株価は12%安と大幅続落し、終値ベースの下落率としてはブラックマンデーのあった1987年10月以来の大きさを記録した。市場関係者の間では、信用取引で買っていた個人投資家の含み損が急拡大し、追加担保の差し入れ義務(追い証)が発生したことで処分売り圧力が増し、株価の下げが拡大したとの見方が広がっている。

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ピクテ・ジャパンの糸島孝俊ストラテジストは「個別株を見ると、証拠金取引の投げと見られる売りが出ており、個人投資家が傷んでいる」と指摘。短期的には、売りの最終局面であるセリングクライマックスを迎えている可能性はあるものの、まだ確証はないと話す。

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東京証券取引所によると、個人投資家の信用買い残高は7月26日時点で4兆9809億円と3週連続で増加。国内外の経済やテクノロジーセクターを中心とした企業業績に対する楽観的な見方から18年ぶりの高水準に膨らんでいた。その後、労働関連統計の低調などから米国景気の先行きが不安視され始めたほか、日本銀行の追加利上げ決定で流動性相場の変調も意識され、日本株相場は一気に崩れている。

信用取引の買い方にとって株価が予想以上に下げた場合、追加で担保を差し入れられなければ、ポジションを解消せざるを得なくなる。7月26日時点の信用買い方の評価損益率はマイナス9.4%。個人が好んで買う値がさ半導体関連株などのパフォーマンスが7月中旬以降さえず、今年最悪にまで落ち込んでいたが、さらに悪化している可能性は高い。一般的に、マイナス10%を下回ると追い証が発生すると言われる。

 

暴落した日本株市場では高配当利回りが人気で、相場の急変動に対し耐性がある低ベーター株のJTが一時700円(17%)安と制限値幅いっぱいのストップ安。個人投資家の保有比率が4割近くあり、知名度の高い孫正義社長が率いるソフトバンクグループも19%安と過去最大の下落率となったことは日本株に対し長期的な先高観を持っていた多くの個人投資家にもショックを与えた。

今回の暴落は今年に入り投資枠が拡充され、順調に利用者を増やしてきた新NISAの先行きにも影響を及ぼしそうだ。日本証券業協会が6月に公表したリポートによると、3月末時点のNISA口座数は2323万口座と昨年12月末から8%超増え、1-3月のNISA経由の買い付け額は6兆2000億円だった。貯蓄から投資の流れを加速させようと目論んでいた政府の期待も裏切られる可能性がある。

なかのアセットマネジメントの中野晴啓代表は「新NISAと日本株の円安バブルが重なり、相場が上がる環境しか経験していない投資家も多い」と指摘した。

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資金の半分弱を日本株で運用するという個人投資家の鶴田健太郎マイケル氏は、日銀の利上げ時に「いくらか株が落ちると考えていたが、ここまで急激に下がるとは考えていなかった」と振り返り、「調整は少しだろうと高をくくり、楽観的にマーケットを見過ぎてしまった」と反省している。

長期的な視点で市場を見たいと考える鶴田氏は、いずれ相場は回復すると見て投資を継続する考えだが、「ナイフを空中でつかむのではなく、地面に落ちた後に拾いたい」とし、買い増しは急落による混乱が収まるのを待ってからにしたいと語った。

1月以来の円高水準

5日の東京外国為替市場の円相場は世界的な株安によるリスク回避の円買いや米長期金利の低下を材料に対ドルで一時3%以上上昇し、141円70銭と1月以来、7カ月ぶりの円高水準に振れた。

急激な円高は半導体をはじめとしてテクノロジー株や自動車株など輸出関連セクターの利益を押し下げる要因となるほか、円安の可能性に賭けていたFX投資家(外国為替証拠金取引)にとっては大きな損失を被る値動きだ。

三井住友DSアセットの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「投資経験の浅い人たちは、このような大きな下落を経験したことがなく、ショックはかなり大きいかもしれない」と言う。記録的な下落が日本株相場に与えた影響は大きく、「市場が安定するにはもう少し時間がかかる」との見方を示している。

(9段落以降に個人投資家のコメントを追加、記事を更新します)

--取材協力:佐野七緒清原真里.

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