経済、物価情勢が見通しに沿って推移すれば利上げを行うという従来からの主張を日本銀行が有言実行したにもかかわらず、金融市場は先々の利上げを十分に織り込んでいない。日銀の覚悟に対してなお半信半疑の市場と、年内の追加利上げ予想が大勢のエコノミストとの見方にかい離が生じている。

ブルームバーグが1日実施した調査では、エコノミストの68%が日銀は年内にさらに利上げに踏み切ると予想。最多は12月の44%で、10月は24%、20%は来年1月を見込む。一方、金融市場では金融政策見通しを反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)で2年先1カ月フォワード金利は0.75%と、1年に1回程度の利上げしか織り込んでいない。

 

三菱UFJアセットマネジメントの小口正之エグゼクティブ・ファンドマネジャーは「日銀は見通し通りなら今後も利上げすると明言した」と指摘。利上げと同時に発表した国債の買い入れ減額計画についても「国債の供給増加がボディーブローのように効いてくる」ため、徐々に金利上昇圧力が加わってくるとみる。

米国が利下げに踏み切り、同国経済のソフトランディング(軟着陸)が見えてくれば、市場の日銀利上げ織り込みも進み、政策金利に敏感に反応する短中期金利を中心に金利が上昇していくことになる。日米の金利差はさらに縮小し、為替相場にも一定の影響を与える可能性がある。

日銀は追加利上げを決定した7月31日の金融政策決定会合の声明文で、実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、展望リポートで示した経済、物価の見通しが実現していくとすれば「それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」と表明。一定の間隔で利上げを進めていく構えだ。

会見する植田日銀総裁

植田和男総裁は会見で、今年中の追加利上げも排除しないのか、という問いに対し、見通し通りのデータが出てある程度蓄積されれば「当然、次のステップに行く」と述べた。6月会合後の会見でも7月利上げについて、データや情報次第で「当然あり得る話だ」と述べたが、市場はこの言葉を軽視し、直前まで7月利上げの織り込みをちゅうちょした。

植田総裁は過去2回の利上げ局面で上限となった0.5%の水準を利上げの壁として意識していないとも述べた。東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジストは「会合の声明文も総裁の会見でも連続的な利上げがあると表明しており、タカ派だった」と話し、中短期債ゾーンの利上げ継続への織り込みは不十分だと指摘する。

織り込み不足の理由

金融市場が日銀の連続利上げを十分織り込んでいない理由について、野村証券の松沢中チーフストラテジストは、植田総裁が中立金利(景気を刺激も冷ましもしない金利)について「言葉を濁している」ことに加え、米国が利下げ局面にあり、「日銀が果たして思い通りに利上げできるか疑っている」ことを挙げる。

その上で、米国の9月の利下げは濃厚なため、そこを通過して市場が米経済のソフトランディングを確信できたら、日銀の利上げを織り込み始め長期金利は上昇に向かうのではないか、とみている。

株と為替は織り込み

一方、為替市場と株式市場では日銀の連続利上げを織り込む動きが進んでいる。2日午後3時時点で円は対ドルで148円台と、日銀会合終了後に付けた153円近辺から円高に振れており、TOPIXは前日比で6%超下落した。

インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、日銀会合の前までは年内利上げは1回という見方が中心だったが、追加利上げに積極姿勢を示した植田総裁の会見を経て、日銀が「思った以上にタカ派化したことが共通認識になっており、市場で織り込みがだいぶ進んだ」と語った。

(10、11段落に為替、株式の動向とコメントを追加し更新します)

--取材協力:横山桃花.

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