公正取引委員会は5日、トヨタ自動車の子会社が製品製造に使う金型などを取引先に無償で保管させたなどとして、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に基づき再発防止を勧告した。

  公取委は発表で、救急車などの特装車両を手掛ける「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」(横浜市、TCD)が取引先に貸与していた金型など用いて製造する製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、計664個の金型などを下請け49社に無償で保管させていたと明らかにした。公取委は費用相当額を速やかに支払うよう勧告した。

  また、TCDは取引先から製品受領後、品質検査を行っていないにもかかわらず、製品に瑕疵(かし)があることを理由に65社の下請けに同製品を引き取らせていた。返品した製品の作業工賃を含めた下請代金相当額は計5427万3356円で、TCDは先月20日に取引先に支払いを行ったという。

  日野自動車やダイハツ工業、豊田自動織機などグループ会社で相次いで起きた認証試験での不正が6月、トヨタ本体でも発覚するなど同社の企業統治(コーポレートガバナンス)が疑問視されている中での新たな不祥事となり、親会社としての責任が改めて問われそうだ。

  TCDの発表によると、一部の対象金型などはすでに廃棄の対応をしており、補償の協議も始めたという。保管費用に相当する額は、公取委の確認を得た後、速やかに支払うとしている。勧告対象期間以外についても総点検し、違反行為が認められた場合は生じた金銭負担相当額を支払う。

  金型はプレスや鋳造などで製品を大量生産する際に使われ、国内では生産金額の約7割を自動車用が占める。旧来の業界慣行では量産期間中は受注側がほぼ無償で管理・修繕をするなど取引条件の曖昧さが問題視されていた。

慣行として定着

  公取委の上席下請取引検査官を務める大沢一之氏は同日の記者会見で、金型の無償保管などについて「わりと取引慣行として定着してしまっている部分がある」と指摘した。本来無料で保管していること自体が「おかしい」が、下請けが保管費用の支払いを求めた事例が確認されていないことなどから、下請け側も同慣行に慣れてしまっている可能性がある、と続けた。

  また、事例として多い誤発注や売れ残りに伴う返品は今回は確認されておらず、傷があるものを下請け側が責任があると認めたものだけを返品していたという。公取委の大沢氏は、「これだけをみると、わりとちゃんと対応してるのではないか思われるかもしれないが、下請法の運用上は、親事業者が製品を受け入れた時に品質検査をやってない場合に、商品に瑕疵があることを理由に返品できないとなっている」と説明した。

  経済産業省はTCDに対し、今後の取引適正化の徹底などを実施するとともに、取組状況について速やかに報告するよう求めた。

  経産省は2019年に立ち上げた協議会で、取引の適正化に向けた基本的な考え方などをとりまとめた。それによると、金型などの保管費用は発注側が支払うなどの原則が示されたほか、自動車業界については量産終了から遅くとも15年を経過した製品用の金型などは廃棄を前提に当事者間で協議することが目安とされた。

  日本自動車工業会など業界団体は同報告書の周知などを行ってきたが、業界ではいまだに違反行為が行われているのが現状で今年に入ってからもサンデンやニデック子会社が公取委から勧告を受けている。

  TCDのウェブサイトによると、同社は18年に設立された。救急車など国内外向け特装車両の生産販売のほか、トヨタからの開発受託なども手掛けている。株式はトヨタが90.5%、豊田通商が9.5%保有している。6月時点での従業員数は951人。

  政府は中小企業が賃上げ原資を確保できるよう、大手企業中心の経済界に対し価格転嫁や適正取引を徹底するよう求めている中で監視の目を強めている。自動車業界では日産自動車が取引先に支払う代金の不当な減額を行っていたとして公取委が3月に下請法に基づく勧告を出していた。

(会見内容を追加して更新します)

More stories like this are available on bloomberg.com

©2024 Bloomberg L.P.