技術・体力ともに成長・・・2度目の挑戦

あれから、1年。

宇部市の料理店に、今年も智弥くんの姿がありました。リベンジに向け、フグをさばく練習をしていました。去年は慣れない手つき、苦しい表情を見せていましたが、今年はハンマーを使いこなし、1人で素早くさばいていきます。1年前とは、明らかに手ぎわが違います。

フグには猛毒があるため、都道府県が認めた人しか毒のある部分を取り除く処理ができません。これまで資格を取るには3年間の実務経験が必要でしたが、2022年4月に廃止され、経験がなくても試験を受けられるようになりました。試験では20分の制限時間内に1匹のトラフグから食べられる部分をとりわけ、片づけまで終わらせなくてはいけません。

練習では、家族も見守る中、しっかり片づけまで終わらせ・・制限時間20分のところ、13分36秒でさばき切りました。去年の半分以下の早さです。智弥くんは悔しい思いをした1年前から30匹以上のフグをさばき、練習を重ねてきたといいます。

この日は試験の雰囲気に慣れようと、師匠の西村友和さんも隣で同時にフグをさばきます。どんな状況にも対応できるようにと、さばくのはいつものトラフグではなく、シマフグです。

智弥くん
「焦っちゃった…やばいやばい…どんどん突き放される」

師匠のスピードに気を取られ、手間取ってしまいました。試験は1年にたった1度だけ。予想外のことにも動じない集中力も試されます。なんとか自分のペースを取り戻し、20分以内にさばききることが出来ました。

智弥くん
「皮をやるときに、切れちゃいけないところが切れて、すごいやりにくくなってしまって、タイムロスになってしまったのが…たまたま下準備で、浮き袋を割るときに入れた包丁の跡があったので、そこからうまくカバーして」

智弥くんはこれまで、西村さんに教わりながら、フグだけでなくいろんな魚をさばく練習をしてきました。

智弥くんを指導・県調理師団体連合会理事 西村友和さん
「対応力、応用力っていうか、教科書どおり、こうやってやってやるんだよってなってたら、予想外の場面が出てきたときに対応ができないと思いますし、数こなしてほかの魚もさばいたことによって、そういうアクシデントがあった時にも十分対応出来たんではないのかなと思います」

フグをさばくには、技術だけでなく、力も必要です。まだ小学生の智弥くんは、去年、力のなさにも苦労していましたが、1年で身長も伸び、体力もついてきました。

西村さん
「1年前に比べたら断然の力量の差ですね。この1年、教えたことに成長が出来たんだなとすごい実感しました」

心も体も、少し大人になったようです。そんな智弥くんの成長を、家族は1番近くで見守ってきました。

父・中村嘉寿さん
「すごいね、変わったねほんと1年ですごい変わった。このフグの試験を受けるって決まってから、すごいやる気になってね。今までずっとのほほんとしてたのに。すごいうれしいよ」

お父さんは去年、智弥くんの11歳の誕生日に、「マイ包丁」をプレゼントしました。智弥くんは試験への挑戦をきっかけに、自分から「やってみたい」と言うことが増えたといいます。

母・佑子さん
「今まで自分からやるとかね」
妹・美咲ちゃん
「あんまりなかった」
佑子さん
「あんまりなかったよね。できるようになったこととか、頑張ったことを身になって自分で分かってるのがすごくいいなと思います。僕力ついてきたような気がするって自分でも言うんで」

そんなお母さんのおなかには、新しい命。試験の数日前が、出産予定日です。

智弥くん
「料理人になって家族を店に呼びたいなって」
母・佑子さん
「楽しみ」
智弥くん
「おなかの中の赤ちゃんには、生まれてからすぐでも食べさせてあげたいなって、できないけど」

さらにお兄ちゃんになる、智弥くん。いつも応援してくれる家族にいいところを見せたいと意気込みます。

智弥くん
「自信満々に、試験合格したよみたいな感じで言いたいなって」