富山県高岡市でおととし11月、自宅を放火し隣接する2棟にも延焼させた事件で、現住建造物等放火の罪に問われた女に判決が言い渡されました。女は失声症で裁判は筆談で進められる異例の展開となりました。また情緒不安定性パーソナリティ障害と診断され、裁判で“罪と障害”がどのように判断されるのか注目されていました。言い渡された判決は、検察側の求刑5年に対し、懲役4年6か月の実刑判決。裁判長は、統合失調症の兄をASDの弟が殺害した事件でも判決を言い渡したベテラン裁判官です。果たして判決の内容とは。

細野高広裁判長:
「被告人を懲役4年6か月に処する」

裁判長から判決が言い渡されると、失声症で声が出ない越前寧美被告、48歳は下を向きうなだれながら、涙を流しました。

越前被告はおととし11月、高岡市京町にある自宅を放火し、隣接する2棟の住宅に延焼させた現住建造物等放火の罪に問われていました。

失声症の越前被告に対し、筆談で進められてきた裁判。争点は越前被告に放火の故意があったかどうかでした。

先月24日の裁判では、放火の故意について検察側と弁護側の主張が真っ向から対立しました。

検察側は「被告が罹患する情緒不安定性パーソナリティ障害により“行動爆発”を起こしたからといって、自分の行為や危険性は認識していた」と主張し懲役5年を求刑しました。

一方の弁護側は「被告は“行動爆発”により、洞察力や現実検討力が衰退し、火が建物に燃え移ることを予想できなかった」として、無罪を主張していました。

情緒不安定性パーソナリティ障害が事件に与えた影響は?そして罪を問えるのか?裁判官と裁判員の判断に注目が集まった判決。富山地裁の細野高広裁判長は、「被告は当時、情緒不安定性パーソナリティ障害の影響で衝動性が高まっていた一方、火のついたマッチを投げる危険性は理解していた」と指摘。

その上で「これほど大きな火災になるとはわかっていなかったものの、被告には放火の故意があった」とし、検察側の懲役5年の求刑に対し、懲役4年6か月の実刑判決を言い渡しました。

続いて、細野裁判長が実刑判決にいたった量刑の理由を読み上げます。第一に結果の重大性を上げました。

細野裁判長:
「被告人は、紙類など燃えやすいものが多数置かれていた物置に火を放ったものであり、自宅と隣接する家がほぼ隙間なく密集していたことからすると、住民の生命や身体に対する危険性が高く、道路を挟んだ先の周辺居宅の住民にも危険性がある行為であったといえる」

焼失した面積は合わせておよそ500平方メートル近く、被害金額は合わせて9686万5000円にも及び、被告の家族やほかの住民に与えた恐怖や不安は大きく、被害は重大としました。

事件のきっかけについて、越前被告の心のよりどころだった愛犬・ハグが死に、新しい犬を飼おうとしたものの、隣人に反対されたことで、追い詰められたとされることについては…。

細野裁判長:
「新しい犬を飼うことについて、隣人が反対していることを聞き、ストレスを感じたことに加え、自分がストレスを感じていることを両親にわかってもらえないことでさらにストレスを募らせ、犯行に及んだと認められ、このような短絡的な動機に酌むべき余地はない」と厳しく指摘しました。

そして、被告が抱える情緒不安定性パーソナリティ障害については…。