東京都美術館で3月31日まで開かれている「人人(ひとひと)展」。来年で50回を迎える美術展が障害のある作家たちの作品を展示しています。5人の独創的な表現と「人人会」の作家27人の強い個性をもつ表現が、1つの空間で共鳴し合い、新たな「人人展」の歴史を刻み始めています。



「人人展」とは、1974年に旧態依然とした画壇に対抗して反権力を標榜する個性的な作家7人で旗揚げしたグループ展です。

「人人会」は「人を縦でなく横に並べ人人と称してきた。私たちは新しい仲間を加え、それぞれの作家が触れている『現在(いま)』という時代をそれぞれの思考と完成によって造形化し、表現してゆこうとする集団である」と宣言しています。現在は20人以上の作家が所属しグループ展は来年で50回目を迎えます。

今回の「人人展」では、「5人の表現者たち」と題し、美術教育を受けていない人たちが湧き上がる強い衝動やこだわりで生み出される「アール・ブリュット」(生の表現)を紹介しています。


5人は知的障害や精神疾患のある作家たちで、作品は「人人会」の作家たちが自ら選びました。

自身の「痛み」を図と文字で記録し続けてきたHさん(富山県)、記憶の中の風景を鉛筆のモノクロだけで描く三橋精樹さん(滋賀県)、線を何度も何度も重ねて「言葉」を描く江戸雄飛さん(福井県)、細胞のような小さな二重丸で画面を埋めていくシノタケさん(富山県)、そして、壊れることも意に介さず大胆な造形を作り出した中村毅義さん(神奈川県)。

三橋精樹
シノタケ
江戸雄飛

Hさんの作品「心身記録図」。精神疾患とけがの後遺症で長期入院していて、自身が感じる「痛み」や「違和感」を、10年間にわたり図と文字で詳細に記録してきました。誰に見せるためでもなくひっそりと書き続けられた膨大な記録は、2018年に病院を訪れたカメラマンによって発見され、その後「作品」として国内外で紹介されています。

中村毅義
中村毅義

「5人の表現者たち」の一人、中村毅義さんは「人人会」創立メンバーの中村正義の長男です。中村正義が知的障害のある息子を陶芸家にしようと自宅に窯をつくり、一緒に制作していました。
今回展示されたのは1974年に中村正義の展覧会で発表された毅義さんの陶芸作品ですが、長年忘れ去られて泥だらけになっていたため、「人人会」の作家たちが「発掘」しました。

中村正義の長男・毅義さん

現在、中村毅義さん(66)は体のまひが進行し自立して歩くことが難しいため、車いすで姉の倫子さんらと会場を訪れました。毅義さんは会場に着くまでは自身の作品を「覚えてない」と言っていたそうですが、実際に作品をみると「なかなかいい」と話していました。

会場では、この5人の表現とともに、「人人会」27人の作家たちの作品が展示されています。32人32様の表現がぶつかり共鳴し合い、「障害」とは何か、「表現」とは何か、「人」とは何か、問いかけているようです。

ハモニカ佐藤
山川真太郎
米田称侑
亀井三千代
大野泰雄

「人人展」11回目から出品している大野泰雄さんは、5人の表現について「思いの強いものが内面に眠っていて、素材と出会った時に一気に出てくる。そういうものがとてもストレートに表されているような感じがして衝撃的」と語りました。

「5人の表現者たち」の展示を担当した「人人会」の日本画家・米田昌功さんは「実際に見たら、作家それぞれが持っていた『障害のある人のアート』とはたぶん違っていたと思う。こういうものを通して、表現の多様さ、人間の多様さや魅力について『人人展』として新しい視界が広げられたのでは」と話していました。

「人人展」は東京都美術館の1階第4展示室で3月31日まで開催されています。入場料は一般500円、学生300円、中学生以下は無料です。