どんなに反省しても死んだ人は戻ってこない

事故から2年7ヶ月。

大津地裁は、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で対向車線にはみ出し、時速およそ78キロまで加速して逆走したとして、危険運転致死罪の成立を認め、男に対し懲役4年の実刑判決を言い渡しました。

事故当時、被告の男から検出された飲酒量が比較的少なかった中で、危険運転致死罪が認められた画期的な判決でした。男の異常な運転を記録していた防犯カメラの映像や後方を車で走っていた人の目撃証言に加え、事故前に飲んだアルコール量から時間経過による減少量を差し引き、事故発生時のアルコール量を求めるウィドマーク法といわれる算出法を使うなど、様々な証拠をもとに、総合的に判断されたのです。

判決後、両親は「推定飲酒量を用いて危険運転致死罪を勝ち得たことは、これから同じような事故の裁判に立ち向かう遺族の励みになるはずだと思い、自分たちの判例を広げていきたいと思っています」と語りました。

男は控訴せず刑が確定しました。

心誠くんの母親:
「心誠の命を奪った飲酒運転犯は、今、兵庫県の加古川刑務所で服役しています。寒い刑務所で懲役しながら、世間と離されて、罪人に囲まれて、自分の悪行を省み、毎日、後悔と己の恥ずかしさに、のたうちまわりながら、過ごさなくてはなりません。それでも奪った命に比べれば生易しいものです。加害者がどんなに反省しても、死んだ人は戻ってこないし、時間は戻らない」

実は、裁判が佳境をむかえるころ、母親に乳がんが見つかっていました。体も悲鳴を上げていたのです。

心誠くんの母親:
「心誠を失った悲しみ、怒り、短い時間に代わる代わる押し寄せ、私の心は毎日、混乱していました。それでも傷ついた家族の心のケア、刑事裁判、立ち向かわなければいけないことが迫ってくるような日々が続きました。周りから“偉いね、立派やね”何度もそう言われました。笑顔の仮面をかぶって、自分とは違う誰かを演じているように過ごしている感覚でした。そして自分の悲しみや思いを閉じ込めて過ごすことが当たり前になっていた…自分が思っていた以上に、心と体はつながっているんだなと感じました。」

息子を失った飲酒運転事故と裁判、そして自らに乳がんが見つかる中、迎えた判決。

事故で愛する人を失う事故をなくしたいという思いから、心誠くんの母親は2月21日、富山市の富山国際大学付属高校で講演を行いました。講演には3年生の生徒270人が耳を傾けました。心誠くんが命を奪われてから5年。初めて地元の富山県で講演をしたのです。

母親は高校生にこう伝えます。

心誠くんの母親:
「私がみんなに伝えたいこと。悲しみを閉じ込めないで。本当につらくなって、動けなくなる前に誰かにつらいと呼びかけてほしい。子供が死んでも、がんになっても、私が生きている限り、私の人生は続きます。これからの私の目標は、富山県の市町村に犯罪被害者支援条例を制定させるお手伝いをすること。それから、私達を苦しめた飲酒運転を撲滅する。危険運転の結果、人を傷つけた犯罪者を正当に適切にさばけるように法律を改正すること。自分が経験して困ったこと。苦しんだこと。これから生きていく人のために、もう全部変えていきたいと強く思っています」

そして、あきらめないでと語りかけました。

心誠くんの母親:
「将来が見えない“君”、やりたいことがわからない“君”、夢を諦めそうな“君”、現実に絶望している“君”、どうか諦めないで欲しい。何もできないとしても、今日1日だけを考えて、今日1日をまず生きてほしい。今日は、昨日になって、1年後になって、着実に積み重なって、明日の自分を支えてくれると私は信じています」