長野市の緩和ケア病院で19日、小さな朗読会が開かれました。
マイクに向かったのは、がんのため入院している朗読家の女性です。

■朗読の声                                                「ベッドの中でもぐらはアナグマのことばかり考えていました 涙はあとからあとからほおを伝い 毛布をぐっしょりぬらします」

病院のホールに響く柔らかな声。


声の主は小山菜穂子(こやま・なほこ)さん、69歳。

がんの緩和ケアを受ける患者でもあります。

小山さんは元SBCアナウンサーで、ニュースワイドや番組の司会などで活躍、その後もドキュメンタリーを中心に数々の番組でナレーションを担当してきました。

そして、小山さんがおよそ30年にわたって情熱を傾けてきたのが、朗読です。

朗読のグループを主宰するほか、各地のカルチャーセンターなどで指導にあたり、絵本から時代小説まで様々な物語の魅力を、声で伝え続けてきました。

小山さんは朗読について「登場人物がどんな声で、どんな感じでこの言葉を表現しているのかをしっかりと自分の中で理解し、それを表現すること」と話します。

朗読家として充実した日々を送る中、体調に異変を感じたのは2022年。


すい臓がんでした。

小山さんがいまも傍らに置く大切な1冊があります。


東日本大震災で陸前高田の松原に残った「奇跡の一本松」を、家族の中でひとりだけ生き残った少女に見立てた物語「希望の木」。

朗読会でもたびたび読んできました。

(文:新井満 絵:山本 二三「希望の木」より)                                          「どうして私はあのとき 父さんや母さんたちと一緒に津波にさらわれなかったのか もしあのとき 家族たちと一緒に死んでいたならば こんなにさみしく つらい思いをしなくてもすんだろうに」

最初は生き残ったことを受け入れられなかった少女。

しかし、次第に、周囲に守られ、託された命なのだと気付きます。

■小山菜穂子さん
「自分(主人公の少女)がお母さんになって、命をつないでいくという決意をするところが、とっても希望を与えてくれる。それが胸に響くお話だと思うんです」

入院して20日ほど。

周囲に背中を押され、小山さんは朗読会を開くことを決めました。


■小山菜穂子さん
「楽しみですね。朗読会は病気になってから初めてで、もう絶対できないと思ってましたから。気力も沸いてこないと思っていたんですけど、そこがちょっと変わってきて、『いや、少しはできるかもしれない』と思えた。それがとてもがうれしいことですね」