長野県中野市で2023年5月25日、住民と警察官の男女合わせて4人が殺害された事件の裁判員裁判。なぜ4人もの命を奪ったのか。惨劇はなぜ起きたのか。傍聴した取材班が11日間にわたった公判を振り返る。
【傍聴記①】【傍聴記③】

自首を勧めた母親 青木被告「絞首刑は嫌だ」

9月5日(金)第2回公判裁判は証人尋問に入る。まず証人に立ったのは青木被告の母親だった。法廷に入った母親は、被告には目を向けず、遺族に向かって深々と頭を下げ、証言台に座った。

事件の一報を夫から電話で聞いた母親は午後5時半ごろ、帰宅。青木被告は庭のモミジの木の周辺にいたという。

事件当日(2023年5月25日)

検察官:どのあたりを移動していましたか?
母親:モミジの木の周辺です。銃撃戦をするような構えでうろうろ歩いていた。緊迫した様子で、SWATが来たら撃ち殺されると思いました。それに備えているのだなと思いました。

検察官:どう感じましたか?
母親:ものすごくショックを受けて、息子を守ってあげたいなと思いました。自分がそばにいたら撃たれないだろうと、息子のそばに寄り添っていました。

検察官:どんな話をした?
母親:興奮状態だったので「政憲、何かあったのか」ぐらいしかかけられなかったです。

検察官:倒れていた人については?
母親:「政憲、あそこに倒れている人がいるんだけど、何かあった?」と。間を置いて、「俺のことをぼっち、ぼっちとバカにしているからやったんだ。パトカーがきたので、撃たれると思って、撃たれる前に撃った」

検察官:あたりが暗くなってから話はしたか?
母親:こんなことをして、人を殺めて、とんでもないことをしてしまって。責任とれることないから「母さんを撃ってくれ」と言いました。

検察官:何か声をかけたか?
母親:自首するように声掛けしました。

検察官:被告人はなんと?
母親:自分のしたことは警察に捕まっても長い裁判の末に絞首刑になってしまう。絞首刑は長くつらく苦しむのでそういう死に方は嫌だと。

検察官:被告に自分(母親)を撃つように指示すると?
母親:それはできないと言いました。このまま自首できないなら、絞首刑が嫌なら自分で自害するしかないと言いました。絞首刑が嫌なので自害すると言いました。

検察官:その後は?
母親:ライフルの銃口をあごに当てて自害しようとしました。2発くらい。銃口と引き金が離れていて撃てていませんでした。

検察官:その後は?
母親:自害できないなら私が撃とうかと言いました。息子はうつぶせに倒れて「心臓がここにあるから背中を撃ってくれ」と。そこでやっとライフルを渡してくれました。とても息子を撃つことはできませんでした。取り上げたライフルを持ったまま、その場を去りました。