起訴内容の罪状認否 青木被告は「黙秘します」
事件発生から2年3か月余り。2025年9月4日(木)、殺人などの罪に問われた中野市の農業・青木政憲被告(34)の裁判員裁判が始まった。裁判所には26席の傍聴席に対し370人の希望者が集まり関心の高さをうかがわせた。被害者遺族にとっては「ようやく始まった」との思いが強いに違いない。惨劇はなぜ起きたのか。法廷でのやり取りで明らかになるはず、だった。

午前10時、長野地裁1号法廷に青木被告が入廷。傍聴席に視線を送りながら席につく。グレーの長袖シャツに、カーキの長ズボン。席に座るとマスクをつけた。冒頭、裁判長から名前を問われると、低めの小さな声で「青木政憲」と答えた。検察側の後ろと傍聴席に座る遺族や親族など10人余りが青木被告に厳しい視線を送る。
検察官による起訴状の読み上げに続いて、裁判長が被告に問う。
裁判長:「公訴事実と違うところはありませんか」
まず罪状認否で青木被告は起訴内容を認めるのか否か。法廷の空気が張り詰める。記者は腕時計を見た。1秒、2秒、3秒…沈黙が続く。そして、9秒を数えたとき、青木被告は口を開いた。
「黙秘します」
この一言は、記者にとっては正直言って想定外だった。被告人が起訴内容を認めるか否かを明らかにする罪状認否は、初公判における最初の注目ポイントになる。固唾をのんで青木被告の言葉を待っていた矢先の「黙秘」。一報を伝えるため、報道各社の記者が次々と席を立ち法廷を出ていく。弁護人によると、当初は起訴事実を認める姿勢だったという青木被告。しかし、裁判前日になって、「黙秘権を行使したい」との意向が伝えられたそうだ。理由は「これまで誰も話を聞いてくれなかったので、きっと裁判でも信じてもらえないと思った」と説明したという。黙秘権の行使は憲法で保障されているが、専門家によると、捜査段階で取り調べに応じていた被告が裁判で話しをしなくなるケースはまれだという。